ヘミング ウェイ 老人 と 海。 ヘミングウェイの英語の名言・格言集。英文と和訳

老人と海について。

ヘミング ウェイ 老人 と 海

Ernest Hemingway アーネスト・ヘミングウェイ アメリカの小説家。 『老人と海』が高く評価され、ノーベル文学賞を受賞。 国: 米国(イリノイ州) 生: 1899年7月21日 没: 1961年7月2日(享年61) 【その生涯】 1899年7月21日、アメリカ中西部のイリノイ州オークパーク(現在のシカゴ)に6人兄弟の長男として生まれる。 医師の父は活動的な人物で、ヘミングウェイは釣りや狩猟、ボクシングなどの手ほどきを受けた。 母は元声楽家であった。 高校卒業後、ヘミングウェイは18歳でミズーリ州の地方紙の見習い記者となるも退職。 翌年、赤十字の一員として第一次世界大戦下の北イタリア、フォッサルタ戦線に赴き、重傷を負う。 戦後はカナダ・トロントの新聞社のフリー記者をつとめ、特派員としてパリに渡る。 ヘミングウェイはパリで画家や詩人たちが集うサロンを開いていたアメリカ人作家ガートルード・スタイン(1874~1946)らとの知遇を得て、小説を書きはじめる。 ヘミングウェイは行動派の作家であり、スペイン内戦(1936~1939)にも積極的に関わり、その経験を元に『誰がために鐘は鳴る』、『武器よさらば』などの長編小説を発表した。 ヘミングウェイの短編には簡潔文体の作品が多く、レイモンド・チャンドラー(1888~1959)など、後に続くハードボイルド文学の原点とされている。 1952年、53歳のときに『老人と海』を発表し、高い評価を得る。 1954年にはノーベル文学賞を受賞。 しかし、同年、ヘミングウェイは二度の航空機事故に遭う。 二度とも奇跡的に生還したが、重傷を負いノーベル賞の授賞式には出られなかった。 以降、ヘミングウェイの売りであった肉体的な頑強さや、行動的な面を取り戻すことはなかった。 晩年は事故の後遺症による躁うつ病に悩まされるようになり、執筆活動も次第に滞りがちになっていく。 1961年7月2日、ヘミングウェイはショットガンで自殺。 61年の生涯を閉じた。 ヘミングウェイの生み出した独特でシンプルな文体は、20世紀の文学界と人々のライフスタイルに多大な影響を与えた。 戦う価値がある。 The world is a fine place and worth the fighting for. ヘミングウェイの名言 人生について書きたいなら、まず生きなくてはならない。 In order to write about life, first you must live it! ヘミングウェイの名言 善とは何か。 後味の良いことだ。 悪とは何か。 後味の悪いことだ。 What is moral is what you feel good after and what is immoral is what you feel bad after. ヘミングウェイの名言 自殺しない本当の理由、それは地獄が終われば、人生がどれほど素晴らしいものになるかを常に知っているからである。 The real reason for not committing suicide is because you always know how swell life gets again after the hell is over. ヘミングウェイの名言 人間は、負けるように造られてはいないんだ。 殺されることはあっても、負けることはないんだ。 Man is not made for defeat. A man can be destroyed but not defeated. ヘミングウェイの名言 あちこち旅をしてまわっても、自分から逃げることはできない。 ヘミングウェイの名言 今はないものについて考えるときではない。 今あるもので、何ができるかを考えるときである。 Now is no time to think of what you do not have. Think of what you can do with that there is. ヘミングウェイの名言 年を重ねると、ヒーローを見つけるのがより難しくなるんです。 でも、本当は、年を重ねた時こそ、必要みたいです。 As you get older, it is harder to have heroes, but it is sort of necessary. ヘミングウェイの名言 作家の仕事とは、判断を下すことではなく理解しようとすること。 ヘミングウェイの名言 誰かを信頼できるかを試すのに一番良い方法は、彼らを信頼してみることだ。 The best way to find out if you can trust somebody is to trust them. ヘミングウェイの名言 愛していない人間と旅に出てはならない。 Never to go on trips with anyone you do not love. ヘミングウェイの名言 とにかく、毎日が新しい日なんだ。 Every day is a new day. ヘミングウェイの名言 私のねらいは、見たことや感じたことをもっともうまく単純に書くことだ。 My aim is to put down on paper what I see and what I feel in the best and simplest way. ヘミングウェイの名言 私は話を聞くのが好きである。 注意深く聞くことで、多くを学んだ。 だが、聞こうとしない者は多い。 I like to listen. I have learned a great deal from listening carefully. Most people never listen. ヘミングウェイの名言 知的な人々の中に幸福を見いだすことは滅多にない。 Happiness in intelligent people is the rarest thing I know. ヘミングウェイの名言 書籍ほど信頼できる友はいない。 There is no friend as loyal as a book. ヘミングウェイの名言 善き父には絶対的なルールが一つある。 子供をもったとき、最初の2年は干渉しないことだ。 ヘミングウェイの名言 戦争は、守られていない富によって引き起こされる。 Wars are caused by undefended wealth. ヘミングウェイの名言 いかに必要であろうと、いかに正当化できようとも、戦争が犯罪だということを忘れてはいけない。 Never think that war, no matter how necessary, nor how justified, is not a crime. ヘミングウェイの名言 往時においては、母国のために死ぬことは心地よく、ふさわしいものであると書かれた。 しかし近代戦争では、戦死が心地よく、ふさわしいものは何もない。 諸君は犬のように死ぬであろう。 They wrote in the old days that it is sweet and fitting to die for ones country. But in modern war there is nothing sweet nor fitting in your dying. You will die like a dog for no good reason. ヘミングウェイの名言 この世では誰もが苦しみを味わう。 そして、その苦しみの場所から強くなれる者もいる。 The world breaks everyone, and afterward, some are strong at the broken places. ヘミングウェイの名言 何と多くの人が財布の中身を考え、他人の思惑を考え、家庭を考えて、つまらない人生に甘んじてしまうことか。 くよくよ考える人間は、はじめから運に見放されており、勇気なんて滑稽にしか思えず、才能があっても活用されずに終わるのだろう。 挙げ句のはては、不平不満の虜になるのがオチである。 ヘミングウェイの名言 心の底からやりたいと思わないなら、やめておけ。 ヘミングウェイの名言 男はしばしば一人になりたいと思う。 女も一人になりたいと思う。 そしてその二人が愛し合っているときは、そういう思いを互いに嫉妬するものだ。 ヘミングウェイの名言 次ページへ続きます。

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ヘミングウェイ「老人と海」のあらすじを簡単に。

ヘミング ウェイ 老人 と 海

彼は老いていた。 小さな船でメキシコ湾流に漕ぎ出し、独りで漁をしていた。 一匹も釣れない日が、既に八四日も続いていた。 最初の四〇日は少年と一緒だった。 しかし、獲物の無いままに四〇日が過ぎると、少年に両親が告げた。 あの老人はもう完全に「サラオ」なんだよ、と。 サラオとは、すっかり運に見放されたということだ。 少年は両親の言いつけ通りに別のボートに乗り換え、一週間で三匹も立派な魚を釣り上げた。 老人が毎日空っぽの船で帰ってくるのを見るたびに、少年の心は痛んだ。 彼はいつも老人を迎えに行って、巻いたロープ、 手鉤 ( ギャフ )、 銛 ( もり )、帆を巻きつけたマストなどを運ぶ手伝いをするのだった。 粉袋で継ぎあてされた帆は、巻き上げられて、永遠の敗北を示す旗印のように見えた。 老人は細くやつれ、首筋には深い皺が刻まれていた。 頬には、熱帯の海に反射した日光によって、まるで皮膚癌のような褐色のしみができていた。 しみは顔の両側に首近くまで連なっている。 両手には、大きな魚の食らいついたロープを制する時にできた、深い傷痕がいくつもあった。 しかし傷痕は新しいものではない。 魚などいない砂漠、風に侵食された砂漠のように、古い傷痕だった。 彼に関しては何もかもが古かった。 ただ、その両眼を除いては。 彼の眼は、海と同じ色に輝き、喜びと不屈の光をたたえていた。 「サンチャゴ」少年は、船を着けた岸の斜面をのぼりながら老人に呼びかけた。 「また一緒に行きたいな。 お金も多少貯まったし」 老人は少年に漁を教えてきた。 少年は彼を慕っていた。 「だめだ」老人は言った。 「お前の船はついてる。 仲間を変えないほうがいい」 「でも僕らは前に、八七日も不漁だった後で、三週間毎日大物を釣ったことがあったじゃないか」 「あったな」老人は言った。 「分かってるさ。 お前が船を変えたのは、俺の腕を疑ったからじゃない」 「親父だよ、船を変えさせたのは。 僕は子供だから、従うしかないんだ」 「分かってる」老人は言った。 「当然のことだ」 「親父には、信じるってことができないんだよ」 「そうだな」老人は言った。 「でも俺たちにはできる。 そうだろ?」 「うん」少年は言った。 「テラスでビールをおごらせてよ。 道具はその後で運ぼう」 「いいとも」老人は応じた。 「漁師仲間として、頂こう」 二人はテラスの店内で腰をおろした。 多くの漁師が老人をからかったが、彼は怒らなかった。 年配の漁師たちの中には、彼を見て悲しむ者もいた。 しかし彼らはそれを表には出さず、潮の流れとか、釣り場の水深とか、良い天気が続いているとか、今日は何を見たとか、そういうことを穏やかに話すのだった。 その日収穫のあった漁師たちはとっくに戻っていて、カジキの処理も済ませていた。 彼らは、二枚の板いっぱいにカジキの身を並べ、二人で板の両端を持ってよろめきながら倉庫へと運んだ。 カジキをハバナの市場に運ぶ冷蔵トラックが来るのを、そこで待つのだ。 サメを獲った漁師たちは、入り江の反対側にあるサメ処理工場に獲物を運んだ。 サメは滑車で吊り上げられ、肝臓を取り除かれ、ひれを切り落とされ、皮を剥がれ、肉は細く切られて塩漬けにされる。 風が東から吹く時には、この工場の臭いが港を越えて漂ってきた。 しかし今日はほんのわずかな臭いしか感じられない。 風は北向きに変わり、それもやんでしまったからだ。 テラスは心地よく陽に照らされていた。 「サンチャゴ」少年は呼びかけた。 「ああ」老人は応えた。 彼はグラスを持ったまま、ずっと昔のことを考えていた。 「明日使うイワシを獲って来ようか?」 「いや。 野球でもして来るといい。 俺はまだ漕げるし、投網はロヘリオがやるだろう」 「僕が行きたいんだよ。 一緒に漁に行けないなら、何か役に立ちたいんだ」 「ビールをくれたじゃないか」老人は言った。 「お前はもう一人前だ」 「初めて僕を船に乗せてくれたのは、何歳のときだったかな」 「五歳だったな。 釣り上げた魚に殺されそうになったんだ。 ひどく活きのいい奴で、危うく船まで粉々になるところだった。 覚えてるか?」 「覚えてるよ。 尻尾でバタバタ跳ね回って、 船梁 ( ふなばり )をぶち壊したんだ。 棍棒でぶん殴った時の音まで覚えてる。 僕はサンチャゴに 舳先 ( へさき )のほうへ突き飛ばされて、濡れたロープのそばで、船全体が震えるのを感じてたんだよ。 サンチャゴが丸太をぶち割るみたいに魚を棍棒で叩いて、すごい音がした。 そこらが甘ったるい血の臭いでいっぱいになったんだ。 」 「本当に覚えてるのか? 俺がした話を覚えてるだけじゃないのか?」 「全部覚えてるよ。 初めての時から全部」 老人は少年を見つめた。 老人の顔は日に焼け、その眼差しは信頼と愛情に満ちていた。 「お前がもし俺の子なら、連れて行って、いちかばちか勝負するんだがな」彼は言った。 「でもお前は、お前の親父とお袋の子だ。 しかもついてる船に乗ってる」 「イワシを獲って来てもいい? 餌にする魚も、四匹は用意できるよ」 「今日の残りがあるさ。 塩をかけて箱にしまってある」 「新しいのを四匹持って来るよ」 「一匹だ」老人は言った。 彼には希望と自信がある。 それは今、新しい風のように彼の中で強くなりつつあった。 「二匹だよ」少年は言った。 「二匹か」老人はうなずいた。 「盗んだものじゃないだろうな?」 「盗むことだってできたけど」少年は言った。 「買ったんだよ」 「悪いな」老人は言った。 彼は単純だったから、自分がいつからこれほど低姿勢な人間になったのかなどとは考えなかった。 自分が低姿勢になったと自覚してはいたけれど、それが不名誉なことでも真の誇りを損なうものでもないということも分かっていた。 「この調子だと、明日はいい天気になりそうだ」彼は言った。 「どこまで行くの?」少年が尋ねた。 「ずっと遠くまでだ。 風が変わったら戻る。 明るくなる前に沖に出られるといいんだが」 「僕も親方に、沖まで出るように頼んでみるよ」少年は言った。 「そうすれば、サンチャゴがすごい大物を引っかけた時、みんなで手助けに行けるからね」 「あいつは 遠出 ( とおで )したがらないだろう」 「そうなんだよ」少年は言った。 「でも、親方には見えないものを僕が見つけられるからね、鳥が獲物を探してるところとか。 それでシイラの後を追っかけさせて、遠出させてやるんだ」 「あいつの眼はそんなに悪いのか?」 「ほとんど見えてないよ」 「妙だな」老人は言った。 「あいつは海亀獲りは一度もやらなかったんだ。 あれをやると眼に悪いんだが」 「でも、サンチャゴはモスキート海岸で何年も海亀獲りをやってたのに、すごく眼がいいじゃないか」 「俺はおかしな年寄りだからな」 「超大物とも戦える?」 「大丈夫だ。 やり方は色々とある」 「道具を片付けようか」少年は言った。 「それから、投網を持ってイワシを獲りに行くよ」 二人は船から道具を取り出した。 老人はマストを肩にかつぎ、少年は木箱と 手鉤 ( ギャフ )と 柄 ( え )つきの 銛 ( もり )を運んだ。 木箱には、 撚 ( よ )りの強い茶色のロープが渦になって収まっていた。 餌にする魚を入れた箱は、棍棒と一緒に船尾のほうに残しておいた。 棍棒は、大きな魚を 船 ( ふな )べりまで引き寄せた時、魚が暴れるのを鎮めるために使うものだ。 老人から何か盗もうとする者などいないだろうけれど、帆や重いロープには夜露はよくないから、持ち帰ったほうが良い。 老人も、この辺の人間が自分の物を盗むことなどないと信じてはいたが、 手鉤 ( ギャフ )や銛を船に残しておくと人の出来心を不必要に誘いかねないとも思っていた。 二人は、老人の棲家である粗末な小屋まで一緒に歩き、開け放してある入り口から中へ入った。 老人は、帆を巻きつけたマストを壁に立てかけ、少年はそのそばに木箱や他の道具を置いた。 マストは、小屋に一つしかない部屋の、奥行きと同じくらい長かった。 小屋は、グアノと呼ばれるダイオウヤシの、若芽を包む硬い 苞 ( ほう )でできていた。 中には、ベッド、テーブル、椅子が一脚あり、土間には炭を使って炊事が出来る場所もある。 丈夫な繊維からなるグアノの葉を伸ばして重ねて作られた褐色の壁には、多色刷りの絵画が二枚掛けられていた。 『イエスの聖心』、そして『コブレの聖母マリア』。 どちらも妻の形見だった。 かつては、色あせた妻の写真もその壁に飾られていたが、見るたびに老人はあまりにも淋しい気持ちになったので、取り外してしまった。 今ではその写真は、部屋の隅にある棚の、洗濯したシャツの下にしまってある。 「何を食べるの?」少年が尋ねた。 「魚の混ぜ 飯 ( めし )がある。 食べるか?」 「僕は家で食べるよ。 火を起こそうか?」 「いや、後で自分で起こそう。 冷たいままで食べてもいい」 「投網は持って行っていい?」 「ああ」 網など無かった。 網を売ってしまった時のことは、少年も覚えている。 しかし二人はこの虚構を毎日繰り返していた。 魚を混ぜた飯も無い。 少年はそれも知っている。 「八五ってのは、良い数字だ」老人は言った。 「バラして千ポンドにもなるような、大物を釣ってくるのを見たいだろう?」 「僕、投網を持って行って、イワシを取ってくるよ。 戸口の、日の当たる所で座っててくれる?」 「ああ。 昨日の新聞があるから、野球の記事でも読んでいよう」昨日の新聞というのも作り話なのかどうか、少年には分からなかった。 しかし老人はベッドの下から新聞を取り出した。 「 酒屋 ( ボデガ )でペリコがくれたんだ」老人はそう説明した。 「イワシが獲れたら戻ってくるよ。 サンチャゴの分と自分の分と一緒に、氷に乗せておく。 明日の朝に分けよう。 戻ってきたら、野球の話を聞かせてよ」 「勝つのはヤンキースだろう」 「でもクリーブランド・インディアンスが怖いな」 「お前、ヤンキースを信じるんだよ。 大ディマジオがいるじゃないか」 「デトロイト・タイガースも、クリーブランド・インディアンスも強いからなあ」 「しっかりしろよ、その調子だとシンシナティ・レッズとかシカゴ・ホワイトソックスまで怖くなるぞ」 「とにかくその辺を読んでおいてよ、戻ってきたら聞くからね」 「下二ケタが八五のくじを買っておくというのはどうだ。 明日は八五日目だからな」 「いいね」少年は言った。 「でも、八七のほうがいいんじゃない? サンチャゴのすごい記録じゃないか」 「あんなことは二度と起きないだろう。 八五のくじを探せるか?」 「買えるよ」 「一枚な。 二ドル半か。 借りる当てがあるか?」 「簡単だよ。 二ドル半くらい、いつでも借りられる」 「俺だって借りられないことはないんだがな。 しかしやめておこう。 最初は借りてるつもりでも、気付けば物乞いだ」 「暖かくしててね」少年は言った。 「もう九月なんだから」 「でかい魚が来る月だ」老人は言った。 「五月なら、漁師の真似事くらい誰でもできるがな」 「じゃあ、イワシを獲りに行くよ」少年は言った。 少年が戻ってきたとき、老人は、椅子に座ったまま眠っていた。 既に日は沈んでいる。 少年は、ベッドから古い軍用毛布をはがし、拡げて椅子の後ろから老人の肩までを包んだ。 奇妙な肩だった。 老いてはいるが、それでも力強い。 首も頑丈だし、眠り込んで頭を前に倒しているので皺もほとんど見えない。 彼のシャツは、帆と同様に継ぎはぎだらけで、ところどころ日に焼けて色あせていた。 顔はやはりずいぶん老いていて、目を閉じていると生気が感じられない。 膝の上には新聞が乗り、夕暮れ時の風にかすかに揺れる紙の束を、腕の重みが押さえていた。 彼は裸足だった。 少年は老人をそのままにして部屋から出た。 戻ってきたとき、老人はまだ眠っていた。 「起きてよ、サンチャゴ」少年は言って、老人の片膝に手を置いた。 老人は眼を開いた。 少し時間をかけて、遠い道のりを帰ってくるかのようだった。 それから彼は微笑んだ。 「何を持ってきた?」老人は尋ねた。 「夕飯だよ」少年は言った。 「一緒に食べよう」 「あまり腹が減ってない」 「食べようよ。 食べずに漁はできないだろう?」 「やったさ」老人は言いながら体を起こして、新聞を手にとって折りたたんだ。 それから毛布をたたみ始めた。 「毛布はかけておきなよ」少年は言った。 「僕が生きている間は、食べずに漁なんてさせない」 「じゃあ長生きしてくれよ、体に気をつけてな」老人は言った。 「何を食うんだ?」 「黒豆ご飯と、揚げバナナと、シチューがある」 少年は、それを二段の金属容器に入れてテラスから持ってきた。 ナイフとフォークとスプーンも二揃い、それぞれペーパーナプキンで包んで、ポケットに入っていた。 「誰にもらったんだ?」 「店の親父のマーティンだよ」 「礼を言わないといけないな」 「十分言っておいたよ」少年は言った。 「サンチャゴは言わなくても大丈夫」 「でかい魚の、腹の肉をやろう」老人は言った。 「こんなことは初めてじゃないんだろ?」 「そうかもね」 「腹の肉だけじゃ足りないな。 ずいぶん世話になってるから」 「ビールも二本くれたよ」 「缶ビールだと最高だな」 「うん。 でも瓶のアトウェイビールなんだ。 瓶を返すのは僕がやるよ」 「悪いな」老人は言った。 「食ったほうがいいか?」 「そう言ってるじゃないか」少年は優しく答えた。 「サンチャゴの用意ができてから蓋を開けたかったんだ」 「用意はできてる」老人は言った。 「ちょっと手を洗う時間が必要だっただけだ」 どこで洗うんだろう。 少年は思った。 村の水道は、二つ下の通りまでしか来ていない。 水を汲んで来てあげなくちゃいけないな、それに、石鹸ときれいなタオルも。 どうして僕はこう気が利かないんだろう。 シャツももう一枚要るし、冬用のジャケットも、靴も要る。 毛布ももう一枚必要だ。 「このシチューは素晴らしいな」老人は言った。 「野球の話をしてよ」少年は頼んだ。 「アメリカンリーグなら、やっぱりヤンキースだ」老人は嬉しそうに言った。 「今日は負けたよ」 「問題ない。 大ディマジオが調子を取り戻すだろう」 「他の選手も強いしね」 「もちろんだ。 だがディマジオは別格だな。 ナショナルリーグなら、ブルックリンかフィラデルフィアだが、まあブルックリンを取るほかない。 しかしディック・シスラーの、あの球場でのものすごい打球を思い出すと、フィラデルフィアも捨てがたいぞ」 「あんなバッターは他にいないね。 あんなに遠くまで飛ばす人は見たことないよ」 「あいつがテラスによく来てた頃を覚えてるか? 俺は漁に誘いたかったんだが、とうとう勇気が出なかった。 それでお前に誘わせようとしたけど、お前もやっぱり勇気が無かったんだ」 「うん、あれは失敗だったよ。 一緒に来てくれたかもしれないのに。 そしたら一生の思い出になったのにね」 「俺は大ディマジオを漁に連れて行きたいんだ」老人は言った。 「あいつの親父は漁師だったらしいじゃないか。 きっと俺たちみたいに貧乏だったんだろうから、話も分かるだろう」 「大シスラーの親父は貧乏じゃなかったね。 あの親父さんは、僕くらいの頃にはもう大リーグでプレーしてたんだよ」 「俺がお前くらいの頃には、アフリカに通う 横帆 ( おうはん )式の船で水夫をやってたな。 夕暮れ時には、砂浜にライオンが何匹もいるのが見えたものだ」 「うん、そう言ってたよね」 「アフリカの話がいいか、野球の話がいいか」 「野球がいいな」少年は言った。 「ジョン・J・マグローのことを話してよ」少年はJをスペイン語式にホタと発音した。 「あいつも昔は、テラスに時々来てたな。 でも飲んでると荒っぽくて口が悪くて、手に負えない奴だった。 野球と同じくらい馬が大好きでな、何は無くともポケットには必ず馬のリストが入ってるんだ。 しょっちゅう電話で馬の名前を言ってたよ」 「すごい監督だったんだよね」少年は言った。 「一番すごい監督はマグローだって、親父が言ってた」 「そりゃ、奴が一番ここに来てたからだ」老人は言った。 「ドローチャーが毎年ここに来てれば、親父さんはドローチャーが一番だって言うだろうよ」 「本当は、誰が一番なの? ルケ? それとも、マイク・ゴンザレス?」 「二人とも同じくらいだな」 「一番の漁師はサンチャゴだね」 「いや。 「そりゃ、なかなかの漁師はいっぱいいるし、すごい漁師もいるけど、一番はサンチャゴしかいないよ」 「ありがとう。 嬉しいことを言ってくれるな。 その褒め言葉をひっくり返すような、すごい魚が現れないことを祈ろう」 「そんな魚はいないよ。 サンチャゴは今でも強い。 そうだろう?」 「俺は自分で考えるほど強くないかもしれない」老人は言った。 「だがやり方は色々あるし、それに、覚悟がある」 「サンチャゴ、明日元気に起きるには、もう寝たほうがいいね。 僕、テラスに色々返してくるよ」 「じゃあ、おやすみ。 朝になったら起こしに行く」 「サンチャゴは僕の目覚まし時計だよ」少年は言った。 「寄る年波が俺の目覚ましだ」老人は言った。 「どうして年寄りは早起きなんだろうな。 一日を長くするためか」 「分からないなあ」少年は言った。 「分かるのは、子供は朝寝坊でなかなか起きないってことだね」 「俺もそうだった」老人は言った。 「ちゃんと時間に起こしてやるよ」 「僕、親方に起こされるのは嫌なんだ。 自分が格下みたいだからね」 「大丈夫」 「じゃあおやすみ、サンチャゴ」 少年は出て行った。 二人は、灯りのないテーブルで食事をしたのだった。 老人はズボンを脱ぎ、暗闇の中でベッドに近づいた。 新聞をズボンで巻いて枕にする。 毛布にくるまって、ベッドのスプリングを覆った古新聞の上に、彼は横になった。 老人はすぐに眠りに落ち、アフリカの夢を見た。 彼はまだ少年だった。 広がる金色の砂浜、白く輝く砂浜。 目を傷めそうなほど白い。 高々とそびえる岬、巨大な褐色の山々。 最近の彼は毎晩、この海岸で時を過ごすのだった。 彼は夢の中で、打ち寄せる波の音に耳を傾け、その波をかき分けて進む先住民たちの舟を眺めていた。 眠っていても、甲板からタールやマイハダの匂いが漂い、朝になれば 陸風 ( りくかぜ )がアフリカの香りを運んでくるのだ。 いつもなら、陸風の香りで目を覚まし、着替えて少年を起こしに出かける。 しかし、今夜は陸風が匂うのが早すぎた。 夢の中でもそれが早すぎると分かったから、老人は、夢を見続けることにした。 海に屹立する島々の白い 頂 ( いただき )を眺め、カナリア諸島のいくつもの港や停泊地を通り過ぎていく。 もはや老人の夢には、嵐も女も大事件も出てこない。 大きな魚も、喧嘩も、力比べも、死んだ妻も出てこない。 今の彼が夢に見るのは、色々な土地と、砂浜のライオンだけだ。 夕暮れの中で、ライオンたちは子猫のようにじゃれあっている。 老人は、少年を愛するのと同じくらい、ライオンたちを愛した。 彼の夢に、少年は決してあらわれなかった。 老人はふと目を覚ました。 開いたままの戸口から、月を見る。 それから丸まったズボンを広げて、足を通した。 老人は小屋の外で小便をしてから、少年を起こすために坂道をのぼっていった。 朝の冷え込みで、体が震えた。 しかし、震えているうちに温かくなってくることは分かっていたし、いずれにせよ、すぐに船を漕ぐのである。 少年の家には鍵がかかっていなかった。 老人は戸を開けて、裸足で静かに入っていった。 少年は、入ってすぐの所にある粗末なベッドで寝ていた。 沈みかけた月の光が差し込み、老人には少年の姿がはっきり見えた。 老人は、少年の足をやさしくつかんだ。 少年は目を覚まし、老人のほうを見た。 老人はうなずいた。 少年は、ベッドのそばの椅子からズボンを取り、ベッドに腰掛けてそれを履いた。 老人が戸口から外に出る。 少年はまだ眠そうに後についていく。 老人は彼の肩に手を回して言った。 「ごめんな」 「ケ・ヴァ」少年は言った。 「大人にとっては仕事のうちだよ」 二人は老人の小屋へと道を下っていった。 まだ暗い道には、裸足の男たちがそれぞれの船のマストをかついで歩いていた。 老人の小屋に着くと、少年は、ロープを入れた 籠 ( かご )と、 銛 ( もり )と 手鉤 ( ギャフ )を手に持った。 老人は、帆を巻きつけたマストを肩にかついだ。 「コーヒー飲む?」少年は言った。 「道具を船に運んでからにしよう」 二人は、朝の漁師が集まる店で、コンデンスミルク缶に注がれたコーヒーを飲んだ。 「よく眠れた?」少年は尋ねた。 少年自身は、まだ完全に眠気が消えたとは言えないが、ずいぶん目が覚めてきていた。 「ぐっすり寝たよ、マノーリン」老人は答えた。 「今日は自信がある」 「僕もだよ」少年は言った。 「さあ、イワシを獲ってこなくちゃ、サンチャゴのも僕のも。 あとサンチャゴの使う新しい餌もね。 うちの船では、道具はみんな親方が自分で運ぶんだ。 人に運ばせるのを嫌がるんだよ」 「俺たちは違うな」老人は言った。 「お前が五歳の頃から色々と運ばせてた」 「そうだね」少年は答えた。 「すぐ戻ってくるから、もう一杯飲んでて。 ここはツケがきくからね」 少年は裸足でサンゴ岩を踏み、餌が冷蔵してある 氷室 ( ひむろ )へと歩いて行った。 老人はゆっくりとコーヒーを飲んだ。 彼の今日一日の食事はこれで全てだ。 だから飲まなければいけない。 ずいぶん前から、食べるというのは彼にとって面倒なことになっていた。 弁当を持っていくことはなかった。 船の 舳先 ( へさき )に、水を入れた瓶を一本置いておけば、一日それだけで十分だった。 少年は、イワシを携えて戻ってきた。 餌にする小魚二匹も、新聞紙にくるんで持っている。 二人は、小石混じりの砂を足の裏に感じながら、船のところへ下りて行った。 そして船を持ち上げ、水上へと滑らせた。 「頑張ってね、サンチャゴ」 「お前もな」老人は応えた。 オールに結ばれた縄の輪っかを、船体から突き出た小さな杭に通してから、彼は上体を前に倒す。 両方のオールで水を浜辺側に押し出し、暗い港から海へと漕ぎ出した。 他の砂浜からも、いくつもの船が漕ぎ出していた。 月は山の向こうに沈んでしまったから、船の様子は見えなかったけれど、彼らのオールが水に入る音、水をかく音は、老人の耳にしっかりと届いていた。 時々、どこかの船から話し声がすることもあったが、ほとんどの船は静かで、ただオールの音だけが聞こえてきた。 港の出口を越えると、船たちはばらばらに拡がっていった。 それぞれが魚の居場所にあたりをつけて大海へ向かうのだ。 老人は遠くまで行くつもりだった。 彼は陸の匂いを後にして、朝の海の清々しい匂いの中を漕いで行った。 水の中で、ホンダワラとおぼしき海藻が 燐光 ( りんこう )を放っているのが見えた。 深さが突然七〇〇 尋 ( ひろ )にもなっているこの辺りを、漁師たちは「大井戸」と呼ぶ。 海底の急斜面に海流がぶつかって渦を作り、あらゆる種類の魚が集まる場所だった。 小エビや 小魚 ( ベイトフィッシュ )、時には深い穴の中にヤリイカの群れがいることもある。 それらが夜になって海面近くまで上がってくると、泳ぎ回る魚たちの格好の餌になるのだ。 暗闇の中で、老人は夜明けが近いのを感じた。 漕ぎながら聞こえてくるのは、海面から跳ね出るトビウオが身を震わせる音や、闇の中を飛び去る彼らがその硬く頑丈な翼で風を切る音だった。 老人はトビウオを愛した。 海の上ではトビウオが一番の友だったからだ。 そして彼は鳥を哀れんだ。 特に、小さくてか弱い、黒いアジサシ。 いつでも飛び回って餌を探しているのに、ほとんど何も見つけられない。 老人は考える。 鳥の一生は、俺たちの人生より苦しい。 泥棒鳥とか、でかくて強い鳥は別だが。 なぜウミツバメみたいな、弱くて繊細な鳥がつくられたんだろう、この残酷な海に。 いや、海は、優しくて美しい。 でも残酷だ。 突然残酷になるんだ。 悲しげに小さな声で鳴きながら飛び回り、急降下して餌を取ろうとするあの鳥たちは、この海で生きるにはあまりに弱い。 彼にとって海は「ラ・マール」であった。 海を愛する人々は、海のことをスペイン語の女性形でそう呼ぶ。 時に海を悪く言う場合でも、彼らにとって海は女性なのだった。 若い漁師の中には、ロープに繋ぐ浮きとしてブイを使ったり、サメの肝臓で儲けた金でモーターボートを買ったりする者がいて、そういう者は海を「エル・マール」と男性形で呼んでいた。 そういう若者にとって、海はライバルであったり単なる場所であったり、場合によっては敵でさえあった。 しかし老人にとって海はいつも女性であり、大きな恵みをくれたりくれなかったりするものだった。 野蛮なことや危険なこともするが、それは彼女自身どうにも止められないことだ。 女性に月が影響するのと同じで、海にも月が影響する。 老人はそう考えていた。 老人は 弛 ( たゆ )みなく漕いだ。 自分のペースを保っている分には、それほど力を込める必要もない。 時に潮の流れが渦巻いているのを除けば、海面は静かだった。 老人は船を動かす仕事の三分の一を流れに任せた。 明るくなり始めた頃には、予定よりずっと遠くまで来ていた。 この一週間は大井戸で粘ったが、収穫はなかった。 今日はカツオやビンナガマグロの群れがいる辺りを狙ってやろう、その群れの中にでかい奴がいるかもしれん。 彼はそう考えていた。 夜が明けきる前に老人は仕掛けを下ろし、船の動きを流れに預けた。 一つ目の仕掛けは四〇尋まで沈めた。 二つ目は七五尋、三つ目と四つ目はさらに海中深く、一〇〇尋と一二五尋までロープが届いている。 それぞれのロープの先では、餌となる小魚が頭を下にして 鉤 ( かぎ )の軸に体を貫かれ、きつく縫い 刺 ( ざ )しにされていた。 鉤の先の、小魚の体から突き出た部分は、曲がっている部分も先っぽも、新鮮なイワシで覆われていた。 イワシたちは眼を串刺しにされ、突き出た鋼鉄の棒の先に咲いた半円形の花びらのようだった。 大きな魚がどこから近づいても、すばらしい匂いと味を感じられるはずだ。 少年がくれた新鮮な餌は、小さなマグロ二匹だった。 ビンナガというやつだ。 その二匹は、深いほうの二本の仕掛けにおもりのように吊り下げられていた。 別の二本には、大きなヒラアジとコガネアジが付いている。 こちらは昨日も使った餌だが、まだ十分使える状態だ。 そこに、匂いで獲物を惹きつけるための新鮮なイワシも一緒に付けてあるのだった。 四本のロープはどれも太めの鉛筆ほどの直径で、切ったばかりの 生木 ( なまき )の枝に結ばれていた。 魚が餌に触れたり餌を引っ張ったりすれば、枝がたわんで合図となる仕組みだ。 どのロープにも、四〇尋のロープを二本ずつ、控えとして付けてある。 控えのロープ同士は繋げられるようになっているので、いざという時には、三〇〇尋以上の一本のロープにして魚に対応できるのだった。 老人は今、船べりを超えて突き出た三本の枝を見つめている。 ロープを垂直な状態にして、仕掛けの深さが変わらないように、ゆっくりと漕いだ。 辺りはもう明るい。 間もなく日の出だろう。 海から、うっすらと太陽が昇り始める。 海流の向こう側、ずっと岸寄りのほうには、他の船たちが海面を這うように散らばっているのが見えた。 太陽が輝き、海面をぎらぎらと照らすと、その光は平らな海に反射して、老人の眼を鋭く突き刺す。 太陽はもうすっかり姿を見せている。 老人は顔を背けて漕いだ。 そして水を覗き込み、暗い海の中へとまっすぐに垂れたロープを見つめた。 彼は水中のロープを垂直に保っておくのが誰より上手かった。 この技術によって老人は、全ての餌を望み通りの深さに正確に配置し、そこを泳ぐ魚を狙うことができるのだった。 他の漁師たちは餌が流れに漂うことを気にしないから、一〇〇尋の深さを狙っているつもりが実際の餌は六〇尋の位置にあったりする。 だが俺の腕は確かだ、と老人は考えた。 ただ運に見放されてるだけだ。 いや、そうとも限らん、今日はきっといける。 毎日が、新しい一日だ。 運はあったほうがいいが、運任せでは駄目だ。 そういう気持ちでいれば、運がめぐってきた時に慌てることもない。 日の出から二時間が経った。 東のほうを見ても、眼はさほど痛まない。 視界に入る船は三つだけだった。 どれも遠く岸寄りにいて、海面に貼り付いて見える。 俺の眼は、明け方の太陽にずっと痛めつけられてきた。 だが今でもこの眼はよく見える。 夕方になれば、太陽を直視しても眼がくらむことはない。 夕方のほうが光は強いくらいだがな。 それにしても、朝の光というのはきついものだ。 ちょうどその時、前方の空に、黒く長い翼を持つ 軍艦鳥 ( ぐんかんどり )が旋回するのが見えた。 軍艦鳥は、翼を後ろにそらせて、斜めに急降下した。 そしてまた旋回を始めた。 「何か見つけやがったな」老人は声に出して言った。 「ただ探してる時の飛び方じゃない」 老人は、鳥が旋回するあたりに向かって、安定した動きでゆっくりと漕いで行った。 決して急がず、ロープは垂直に保ったままだ。 正しい釣り方を崩さずに、とはいえ鳥を目標として多少は速度を上げるために、老人は少しだけ潮流に近づいて進んで行った。 鳥は空高く舞い上がり、翼を動かさずに旋回したかと思うと、突然また降下した。 海からはトビウオたちが跳ね上がって、必死に水面を走った。 「シイラだ」老人は言った。 「でかいシイラがいる」 老人はオールを船内におさめると、 舳先 ( へさき )から細いロープを取り出した。 それには針金の 鉤素 ( はりす )と、中くらいの大きさの釣り針がついていた。 老人は、そこにイワシを一匹つけ、船べりから投げた。 そしてロープの端を船尾のリングボルトにしっかり結びつけた。 それから別のロープにも餌をつけ、こちらは巻いたまま舳先に置いておいた。 彼は再び漕ぎ始め、黒く長い翼の鳥が水面近くで飛び回るのを見つめていた。 老人が見ていると、鳥はまた翼を傾けて急降下し、むやみに大きく羽ばたいて、トビウオを追った。 その時、水面がわずかに盛り上がるのが見えた。 逃げるトビウオを狙って、大きなシイラの群れが海面に近づいているのだ。 シイラたちは、滑空するトビウオの下を、水を切り裂きながら進んでいく。 トビウオが水に落ちる地点まで猛進し続けるだろう。 これは大群だ、と老人は思った。 奴らは大きく広がっている。 トビウオが逃げ切る見込みはほとんど無いな。 鳥がうまくやれる見込みはもっと無い。 あの鳥にはトビウオは大きすぎるし、トビウオのほうがずっと速い。 トビウオが次々と海面から跳ね、鳥がむなしく飛び回る様子を、老人はじっと見ていた。 彼は考えた。 シイラの大群には逃げられたな、奴らの泳ぎはかなり速いし、もうずいぶん遠い。 だが、はぐれた奴が釣れることもあるだろう。 それに、大物が奴らの 後 ( あと )を泳いでいるかもしれん。 俺の狙う大魚は、どこかに必ずいるんだ。 陸地のほうには、雲が山のように盛り上がっていた。 海岸は、長く続く一本の緑色の線でしかなく、その背景にはくすんだ青色の丘が並んでいる。 海の青は暗く、ほとんど紫色のようだった。 海の中を見下ろすと、暗い水中に赤く散らばるプランクトンや、太陽の作り出す不思議な光の模様が見えた。 老人は、闇の中にまっすぐに垂れ下がるロープを見つめ、水中にプランクトンが多いことを喜んだ。 それは、魚がいる印だからだ。 高く昇った太陽が、水中にあの不思議な光の模様を作るのは、天気のいい印である。 陸地の上の雲の形もそうだ。 鳥は、もうほとんど見えなくなってしまった。 老人はこれを「悪い水」という意味のスペイン語で「アグア・マーラ」と呼ぶ)。 カツオノエボシは、綺麗な形をしたゼラチン質の浮き袋を紫色の虹のように輝かせながら、ひっくり返ったり元に戻ったりしていた。 まるで泡のように陽気に漂っていたが、水中には毒々しい紫色の細長い触手を一ヤードもなびかせているのだった。 「アグア・マーラか」彼は言った。 「娼婦め」 老人はオールを軽く押し、そこで海の中をのぞきこんだ。 触手と同じ色の小魚たちが、触手の間や、漂う泡の陰を泳ぎ回っていた。 小魚たちは毒に対して免疫があるのだ。 しかし、人間はその免疫を持たない。 もしも触手がロープに絡み、ぬるぬると紫色にまとわりつけば、ロープを引っ張る老人の手や腕に、みみず 腫 ( ば )れと痛みをもたらすことになるだろう。 ツタウルシの毒でかぶれるのと似ているが、アグア・マーラの毒はもっと速く、鞭で打つように人を襲う。 虹色の泡は美しい。 しかし奴らは海で一番の詐欺師だ。 老人は、大きな海亀が奴らを食べてしまうのを見るのが大好きだった。 海亀は、カツオノエボシを見つけると、正面から近づいて行き、眼を閉じて全身の守りを固め、触手ごと丸々食べてしまうのだ。 老人は、海亀が奴らを食べる様子を見るのも、嵐の後の浜辺でカツオノエボシの上を歩いて、硬いかかとで踏みつけてポンと破裂する音を聞くのも好きだった。 彼は、アオウミガメやタイマイを愛していた。 優雅で、泳ぎが速く、値打ちがあるからだ。 大きくて愚かなアカウミガメには、軽蔑混じりの親しみを抱いていた。 黄色い鎧を着けて、おかしな求愛行動をする奴で、カツオノエボシを食べる時には幸せそうに眼を閉じるのだった。 老人は過去に何年も海亀獲りの船に乗っていたが、海亀を神秘的な生き物だとは思っていなかった。 むしろ哀れに思っていた。 小船と同じくらいの大きさで体重は一トンもあろうかという巨大なオサガメのことさえ、哀れんでいた。 ほとんどの人間は、海亀に対して冷淡だ。 海亀の心臓は、体が切り刻まれても一時間は動き続けるからだ。 しかし老人は、自分の心臓だって同じだと思っていた。 脚や手だって、亀と変わらない。 彼は力をつけるために、海亀の白い卵を食べていた。 五月中は卵を毎日食べて力をつけ、九月から十月には超大物と戦うのだ。 彼はサメ肝油も飲んでいた。 漁師たちの道具小屋にある、大きなドラム缶から、毎日一杯ずつ飲む。 飲みたい漁師は誰でも飲めるように置いてあるのだが、たいていの漁師はその味を嫌っていた。 しかし、早い時間に起き出す大変さに比べれば何てことはないし、飲んでいれば風邪やインフルエンザにも強くなる。 おまけに眼にも良いのだ。 老人がふと見上げると、あの鳥が、また旋回を始めていた。 「魚を見つけたな」彼は声に出して言った。 海面を跳ねるトビウオはおらず、小魚が散らばる様子もなかった。 が、老人が見ていると、小さなマグロが一匹跳ね上がり、空中で逆さになって頭からまた水に潜った。 日光で銀色に輝くそのマグロが水中に消えてしまうと、次から次へとマグロたちが飛び上がり、四方八方に跳ねまくった。 水をかき回し、餌を求めて大きく飛び跳ねる。 そして輪を描いて獲物を追い込もうとしていた。 マグロたちの動きがあんなに速くなければ、あの真ん中に船を突っ込んでやるんだがな。 老人はそう考えた。 マグロの群れが水を白く泡立たせる様子や、パニックになって水面に上がってきた小魚を狙って鳥が急降下を繰り返す様子を、老人は見つめていた。 「あの鳥にはずいぶん世話になる」老人は言った。 その時、彼の足の下で輪にしてあったロープが、船尾のほうからぐっと引っ張られた。 老人はオールから手を離した。 ロープを堅く握って手繰り寄せると、小さなマグロが体を震わせながら引っ張っている力を感じる。 震える力は、ロープを引けば引くほど強くなっていった。 水の中から、魚の青い背中と金色のわき腹が見えてきた。 そして彼は、船べりを越えて魚を船に引き入れた。 魚は太陽に照らされ、引き締まった弾丸のような体をして、大きく無表情な目を見開きながら、良い形のよく動く尾を素早く震わせ、 船板 ( ふないた )にその生命を打ちつけている。 老人は優しさから、魚の頭を叩き、蹴飛ばした。 魚は船尾の陰に飛び、それでも震え続けている。 「ビンナガだ」老人は声に出して言った。 「いい餌になるぞ。 十ポンドはありそうだ」 声に出して独り言を言うようになったのはいつからだったか、彼は覚えていなかった。 昔は、一人のときには歌を口ずさんだものだ。 魚槽付小型船 ( スマック )や亀獲り船で、寝ずに舵取りの番をするような時など、たまに歌を唄っていた。 老人が独り言を言うようになったのはきっと、少年が去って、一人になってからだろう。 しかし定かではなかった。 少年と一緒に漁に出ていた頃は、必要な時以外ほとんど会話をしなかった。 二人が話すのは、夜とか、悪天候で船を出せないときだ。 海では不必要に喋らないのが美徳だったし、老人はいつでもその美徳を尊重していた。 しかし今、彼は自分が思ったことをたびたび声に出す。 それで困る者もいないからだ。 「べらべら喋っているのを誰かが聞いたら、俺のことを気違いだと思うだろうな」老人は声に出して言った。 「だが気違いじゃない。 だから構わないんだ。 金持ちの奴らなどラジオを持っていて、船の中で喋らせるどころか、野球の実況までさせてるじゃないか」 今は野球のことを考える時じゃない、彼は思った。 考えるべきは、たった一つ。 そのたった一つのために、俺は生まれてきたのだ。 この群れのまわりに、大物がいるかもしれない。 まだ、餌を追うビンナガの群れから 逸 ( はぐ )れた一匹を釣っただけだ。 しかし群れはもう遠く、速い。 今日は水面に見える全てが、北東に向かって高速で動いているようだ。 時間帯のせいか。 それとも、俺の知らない、天気が変わる前兆だろうか。 緑色の海岸線はもう見えない。 見えるのは、青い丘の 頂 ( いただき )がまるで雪をかぶったかのように白く光る様子と、その上に高い雪山のように広がる雲だけだった。 海はとても暗く、差し込む光が水の中にプリズムを作っていた。 無数の斑点のようなプランクトンたちの姿は、高く昇った日の光でかき消されている。 老人の目に映るのは、青い水の中に深々と延びるプリズムと、一マイルの深さまで真っ直ぐに垂らされている彼のロープだけだった。 太陽はもう熱く、老人はうなじでそれを感じた。 漕ぎながら、背中に汗が流れるのが分かった。 漕がずに流すという手もある、と彼は思った。 たとえ眠っても、ロープの先を輪にして足の指にかけておけば、目は覚める。 しかし、今日は八五日目だ。 釣らねばならない。 その時、ロープを見守る彼の目に、突き出た 生木 ( なまき )の枝の一本が勢い良くたわむのが見えた。 「よし」彼は言った。 「よし」そして、船を揺らすことなくオールをおさめた。 右手を伸ばして、ロープを親指と人差し指の間に挟み、そっと押さえる。 引きも重みも感じられない。 彼はロープをそのまま軽く握っていた。 すると、また引きが来た。 今度は試すような引きで、強さも重みもない。 彼は状況を正確に理解した。 一〇〇尋の深さで、カジキが餌を食べている。 小さなマグロの頭から突き出た手製の鉤の、軸と先端を覆っているイワシをかじったのだ。 老人はロープを軽く押さえたまま、それを左手で枝からそっと外した。 これで、魚に全く抵抗を感じさせずに、指の間からロープを送り出すことができる。 この時季にこれだけ遠い沖にいるなら、大物に違いない。 食え、もっと食え。 頼む、食いついてくれ。 最高に新鮮な餌だぞ。 お前は六〇〇フィートもの深さの、暗くて冷たい水の中にいるんだろう。 暗闇の中をひと回りして、戻ってきて食いつくんだ。 かすかに、柔らかい引きを感じた。 続いて、少し強い引き。 イワシの頭が鉤からすんなり取れなかったのだろう。 そして、引きは無くなった。 「来い」老人は声に出して言った。 「またひと回りして、匂いを嗅いでみろ。 素晴らしいイワシだろう。 たっぷり食ったら、次はマグロだ。 硬くて冷たくて、最高の味だ。 さあ、遠慮するな。 食うんだ」 彼は、親指と人差し指の間にロープを挟んで待ちながら、全てのロープに同時に気を配った。 魚が水深を変えて泳いでいるかもしれないからだ。 すると再び、先ほどと同じ柔らかい引きが来た。 「食いつくぞ」老人は言った。 「どうか、食いついてくれ」 しかし食いつかなかった。 魚は逃げ、手ごたえは無くなった。 「逃げるはずはない」彼は言った。 「絶対にない。 向きを変えて戻ってくる。 もしかしたら、前に引っ掛けられた経験があって、それを思い出しているのかもしれないな」 やがて優しげな引きを感じ、老人は喜んだ。 「ひと回りしていただけだ」彼は言った。 「食いつくぞ」 弱い引きの感覚を喜んでいた老人は、ほどなくして、強く、信じがたいほどの重みを感じた。 魚の重みだ。 彼はするするとロープを送り出す。 巻いてあった控えのロープ二本のうち、一本分は既に出て行った。 ロープは老人の指の間を軽く滑り、親指にも人差し指にもほとんど力はかからなかったが、彼はまだ大きな重みを感じていた。 「なんて魚だ」老人は言った。 「餌を横向きにくわえて、そのまま逃げようとしてる」 またひと回りして、きっと飲み込むだろう。 彼はそう思ったが、口には出さなかった。 いい話を口に出すと、えてして幻になってしまうものだ。 相手が巨大な魚であることは分かっている。 マグロを横からくわえて、暗闇の中を逃げて行こうとする様子が目に浮かぶ。 その瞬間、魚の動きが止まった。 だが重みは依然として残っていた。 ややあって、その重みが増し、老人はさらにロープを送り出した。 親指と人差し指にちょっと力を入れると、さらに重みが加わり、ロープはまっすぐ海の中に潜っていく。 「食いついたな」老人は言った。 「しっかり食わせてやるとしよう」 指からロープを滑らせながら、彼は左手を伸ばした。 控えのロープ 二巻 ( ふたまき )を、別の控えの 二巻 ( ふたまき )にしっかりと結ぶ。 準備は整った。 これで、今持っているロープに加え、四〇尋の控えが 三巻 ( みまき )も用意できたのだ。 「もうちょっと食うんだ」老人は言った。 「しっかり食らいつけ」 そうだ、鉤の尖端がお前の心臓に突き刺さって、お前を殺してしまうくらいにな。 気楽に上がって来いよ。 そうしたら、 銛 ( もり )を打ち込んでやるからな。 さあ、いいぞ。 準備はどうだ。 もう十分食べただろう? 「そら!」彼は大声を出して、ロープを両手で思い切り引き、一ヤードほど手繰り寄せる。 そして、腕に全力を込めながら体重を乗せ、両腕を交互に振るようにしてぐいぐいと引っぱる。 何も起こらなかった。 魚はただゆっくりと遠ざかっていく。 老人には、一インチたりとも引き上げることはできなかった。 老人はロープを背中に回して支えた。 大物用の丈夫なロープがぴんと張り、水の粒が飛び散る。 やがて水中のロープから、じりじりと鈍い音がしてきた。 彼はロープを握って 船梁 ( ふなばり )に寄りかかり、体を反らせて引きに抵抗した。 船はゆっくりと、北西の方角へ動き始めた。 魚は 弛 ( たゆ )みなく泳ぐ。 穏やかな海を、船は魚とともにゆっくり移動していく。 他の餌はまだ水の中だが、どうしようもなかった。 「あの子がいてくれたらなあ」老人は声に出して言った。 「魚に引っ張られて、これじゃ俺が 曳航 ( えいこう )用の 繋 ( つな )ぎ 柱 ( ばしら )だ。 ロープを固定しようと思えばできるが、そうしたら奴に切られちまうだろう。 なんとしても、逃がすわけにはいかん。 引っ張りたいならもっと伸ばしてやればいい。 ありがたいことに、奴は移動してはいるが深く潜ろうとはしていない」 もし潜り始めたらどうするか。 分からない。 底まで潜って死んでしまったらどうすべきか。 分からない。 いや、何とかするさ。 いくらでも手はあるんだ。 彼は背中でロープを支え、それが水の中へ斜めに延びている様子を見つめた。 船は北西へ向けてゆっくり動いていく。 奴はいずれ死ぬ、老人はそう考えた。 ずっとこうしていられるわけがない。 しかし四時間後、魚は変わらずゆっくりと、船を引きながら沖へ向けて泳ぎ続けていた。 老人も変わらず、背中に回したロープをしっかり支えていた。 「奴を引っ掛けたのは 正午 ( まひる )だった」彼は言った。 「なのに、俺はまだ一度も奴の姿を見ていない」 魚を引っ掛ける前に深くかぶり直した麦わら帽で、額が痛んだ。 のどもひどく渇いていた。 彼は膝をついて、ロープを引っ張らないように注意しながらできるだけ 舳先 ( へさき )に近いところまで這って行き、片手を伸ばして水の瓶を取った。 栓を取り、少しだけ飲む。 そして舳先に寄りかかって休んだ。 横たえてあるマストと帆の上に腰を下ろして、ただ耐えること以外考えないようにしていた。 ふと振り返ると、陸地は全く見えなかった。 どうってことはない、彼は思った。 ハバナの灯りを目指せば、いつだって帰れるんだ。 日没まで二時間ある。 それまでには奴も上がってくるだろう。 でなければ、月と一緒に姿を見せるかもしれん。 そうでなければ、日の出と一緒かもしれん。 俺はすこぶる元気だし、筋肉の引きつりもない。 口に鉤が刺さってるのは奴のほうだ。 それにしても、この引きはどうだ。 針金までしっかりくわえこんでいるんだ。 姿を見てやりたい。 ひと目だけでも見て、俺の相手がどんな奴なのか知りたい。 老人が星を見て判断した限りでは、その夜、魚は進む方向を全く変えなかった。 太陽が沈むと寒くなった。 汗は乾き、老人の背中や腕や老いた脚を冷やす。 彼は昼の間に、 餌 ( えさ )箱を覆っていた袋を取り、日なたに広げて乾かしておいた。 日が沈んでからそれを首に巻いて、背中のほうに垂らし、肩にかかっているロープの下に慎重に差し入れた。 これで袋がクッションになる。 そうして、前向きに 舳先 ( へさき )へ寄りかかればだいぶ楽になる。 実際には、多少我慢しやすいという程度だったのだが、彼にはずいぶん楽になったように思えた。 俺には何もできない、が、奴にも何もできない。 奴がこのまま泳ぎ続ける限りは、変わらないだろう。 老人はそう考えていた。 彼は一度立ち上がって、 船端 ( ふなばた )から小便をした。 そして星を見て進路を確認した。 肩からまっすぐに水中に走るロープは、燐光を放つ筋のように見える。 船の動く速度は落ちていた。 今やハバナの灯りはさほど強くなく、海流が彼らを東のほうへ運んだのが分かった。 もしもハバナの光が見えなくなったら、さらに東のほうに曲がったということだ。 もし魚が針路を変えなければ、まだしばらくは光が見えるはずだからな、そう彼は考えた。 大リーグの今日の試合はどうなったろう。 ラジオで聴けたら最高なんだが。 しかし彼はすぐ思い直した。 今はただ一つの事に集中しなければ。 自分のやることだけを考えるんだ。 下らないことをしてる場合じゃない。 そして声に出して言った。 「あの子がいてくれたら。 手助けを頼めるし、いい経験をさせてやれるのに」 年を取って独りでいるのは良くない。 彼は思った。 だがどうにもならない。 それより、悪くなる前にさっきのマグロを食べるのを忘れちゃいかん。 まだまだ力が必要だからな。 食いたくなくても食うんだ、朝のうちに食うんだぞ。 忘れるなよ、彼は自分に念を押した。 夜になると、二匹のネズミイルカが船のそばに現れた。 体を回転させたり、息を吐き出したりする音が聞こえてくる。 彼は、オスが息を吐き出す音と、メスのため息のような呼吸とを、聞き分けることができた。 「イルカはいい」彼は言った。 「遊んで、じゃれあって、愛し合う。 俺たちの兄弟だ。 トビウオと同じだな」 そして彼は、自分が引っ掛けた大きな魚に同情し始めた。 奴は、滅多にいない素晴らしい魚だ。 何歳ぐらいだろう。 こんなに強い魚も、こんなにおかしな動きをする魚も、今まで見たことがない。 きっと、賢いから飛び跳ねないんだろう。 奴が跳ね回って突っ込んでくれば俺なんか吹っ飛ばされるところだが、おそらく奴は前に何度も引っ掛けられて、これが一番の戦い方だと学習したんだ。 しかしまさか、自分の相手がたった一人で、しかも年寄りだとは分かるまい。 それにしてもでかい魚だ。 肉の質さえ良ければ、市場でどれだけの高値になるか。 奴は男らしく餌に食いついて、男らしく引っ張っている。 その戦い方には動揺がない。 何か考えがあるのだろうか、それとも、俺と同じでただ必死なだけなのか。 老人は、つがいのカジキのうち一匹を引っ掛けた時のことを思い出した。 カジキのオスは、餌を見つけると必ずメスに先に食べさせる。 だから引っ掛かったのはメスのほうで、パニックを起こして自暴自棄な暴れ方をしたので、すぐに力を使い果たしてしまった。 オスのほうはその間ずっとメスのそばにいて、ロープの前を横切ったり、海面を一緒に旋回したりしていた。 オスがあまり近づくので、老人は、尾でロープを切られてしまわないか心配した。 その尾は 大鎌 ( おおがま )のように鋭く、大きさも形もほとんど大鎌そのものだったのだ。 老人はメスの体に 手鉤 ( ギャフ )を打ち、棍棒でなぐりつける。 剣 ( レイピア )のようなくちばしの、ざらざらした刃先を捕まえながら、魚体の色が鏡の裏側のような銀色に変わるまでその頭を打った。 それから少年の助けを借りて、魚を船に引き上げた。 この間もずっと、オスのカジキは船のそばに 留 ( とど )まっていたのだった。 老人がすぐにロープを片付けて 銛 ( もり )を手に取ると、オスは船の間近で、メスの姿を確認できる高さまで跳ね上がった。 そしてそのまま、深く潜って行ってしまった。 翼のような胸びれを大きく広げ、薄紫色の縞模様を見せながら。 あいつは美しかった。 最後まで寄り添ったんだ。 あの時のことが、俺の経験の中で一番悲しい出来事だったな、老人はそう考えた。 あの子も悲しんでいたな。 俺たちはメスに謝って、すぐにばらしてしまったんだった。 「あの子がここにいてくれたら」彼はそう言いながら、 舳先 ( へさき )でたわんだ船板に寄りかかった。 肩にまわしたロープを通して、大魚の力が伝わってくる。 どこへ向かっているのか、魚は自身の選んだ道を着実に進んでいた。 俺の罠にかかって、進む道を選ばざるをえなかったのだ。 老人はそう考えていた。 奴が選んだのは、全ての誘惑や罠や欺きから遠く離れて、暗い海の深い所にとどまることだ。 俺が選んだのは、全ての人間を振り切って、世界中全ての人間を振り切って、奴を追いかけ、奴を見つけることだ。 それで俺たちは一緒にいる。 昼からずっとだ。 お互い、誰かの助けは期待できない身だな。 ひょっとすると、漁師になんかならなきゃ良かったのかもしれん。 彼は思った。 いいや、俺は、魚を獲るために生まれてきたんだ。 いいか、明るくなったらマグロを食うのを忘れるなよ、きっとだぞ。 夜明け前、背後にある餌の一つに、何かが食いついた。 枝の折れる音が聞こえ、ロープが船べりを滑り出ていく。 老人は闇の中でナイフを鞘から抜いた。 そして体を後ろに傾け、大魚の引っ張る力を左肩だけで支えながら、ロープを船べりの板に押しつけて切った。 それから、一番近くにあったロープも切り、控えのロープの末端同士を闇の中でしっかりと結びつけた。 片手だけで、巧みに作業を進める。 結び目をきつく締める時には、足でロープを押さえるのだった。 これで、控えのロープが六本になった。 切り捨てた餌についていたものが二本ずつ。 あの魚が食いついている餌のためのものが二本。 既に全て繋いである。 彼は思った。 明るくなったら四〇尋の餌のところに戻って、それも切ってしまおう。 そうすれば、そのロープも繋げる。 だが代わりがきく物だ。 別の魚を引っ掛けたせいで奴を逃がしたら、その代わりがいるか? 今さっき何の魚が食いついたのか、それは分からん。 マカジキかメカジキか、あるいはサメだったかもしれん。 引いてもみなかった。 確かめるより先に、切り落とさなきゃいけなかったんだ。 彼は声に出して言った。 「あの子がいてくれたらなあ」 しかしあの子はいない。 彼は思った。 いるのはお前一人だ。 暗くても構わず、最後のロープを切るのを今やってしまったほうがいい。 切ってしまって、控えのロープ二本を繋ぐんだ。 彼は実行した。 闇の中では難しい作業だった。 一度、魚がうねるように大きく動き、彼は顔から引き倒されて目の下を切った。 少しだけ頬に血が流れたが、顎に届く前に固まって乾いてしまった。 何とか 舳先 ( へさき )まで戻り、船板にもたれて休んだ。 彼は、肩に当てた袋の位置を調整して、ロープの当たる場所を慎重に変えた。 肩で支えるロープから伝わる引き具合を注意深く確かめつつ、片手を水に入れて船の進む速さを測った。 なぜ奴は、急にあんなにふらついたんだろう。 彼は思った。 きっと、大きく盛り上がった背中に針金がこすれたんだ。 俺の背中ほどひどい痛みではないだろうがな。 しかし奴がいくら立派だと言っても、この船を永遠に引き続けるわけにはいくまい。 もう心配なことは何もないし、控えのロープも十分にある。 やれることは全てやった。 「魚よ」彼は声に出して、優しく言った。 「俺は死ぬまでお前と一緒だ」 奴もきっとそのつもりだろう、老人はそう思って、夜明けを待った。 日の出前のこの時間は冷える。 彼は船板に体を押し付けて寒さをしのいだ。 奴がやる限りは、俺もやってやる。 彼はそう考えた。 明け方の薄明かりの中で、ロープはまっすぐ水中へと走っている。 船は着実に移動を続ける。 やがて太陽のふちが水平線から現れ、老人の右肩を照らした。 「北に向かってる」老人は言った。 しかし潮の流れは、俺たちをずっと東まで運ぶだろうな。 奴が流れに押されて向きを変えてくれるようだといいんだが。 彼はそう考えた。 そうなれば、魚が疲れていることが分かる。 太陽がさらに昇り、老人は、魚は疲れてなどいないと知った。 一つだけ、好ましい徴候があった。 魚の泳ぐ水深がやや浅くなっていることを、ロープの角度が示していたのだ。 だからと言って必ず跳ね上がるとは限らない。 が、跳ね上がるかもしれない。 「どうか、跳ねてくれ」老人は言った。 「奴を扱えるだけのロープは用意してある」 おそらく、俺がほんの少しロープの張りを強めるだけで、奴は痛がって跳ね上がるだろう。 彼は考えた。 もう夜は明けたんだ、奴を跳ねさせてやろう。 そうして奴の背骨近くの浮き袋が空気で膨れてしまえば、もう深く潜って死ぬことはできなくなる。 彼は張りを強めようとしたが、ロープは既に、ちぎれる寸前まで張り切っていた。 あの魚が掛かってからずっとそうだったのだ。 後ろへ体を傾けて引くと荒々しい手応えがあり、これ以上引っ張ることはできそうもない。 引いちゃいかん、と彼は思った。 もし引けば、奴の傷が広がって、跳ね上がった時に鉤を振り落とされかねない。 ともかく、日が昇ってから俺の調子も良くなった。 それに、もう太陽を直視しなくて済む。 ロープには黄色い海藻がまとわりついていた。 魚にとっては重りが増えるだけだから、老人はむしろ喜んだ。 この黄色いホンダワラが、昨晩あれほど燐光を放っていたのだ。 「魚よ」彼は言った。 「お前を愛してるし、心から尊敬してもいる。 だが、俺はお前を必ず殺す。 今日のうちにな」 そうなって欲しいものだ、と彼は思った。 小さな鳥が、船に向かって北のほうから飛んできた。 鳴鳥の一種で、海上をかなり低く飛んでいる。 老人には、鳥がずいぶん疲れていることが分かった。 小鳥は船尾のほうに来て、そこにとまった。 それから老人の頭のまわりを飛び、今度はもっと居心地の良さそうな、ロープの上にとまった。 「 何歳 ( いくつ )だい?」老人は鳥に尋ねた。 「旅は初めてか?」 喋る老人を、鳥は見つめていた。 疲れ果てて足場をあらためる余裕もない鳥は、華奢な足でしっかりロープを握って、その上で揺られている。 「その綱は丈夫だ」老人は鳥に言った。 「かなり丈夫だぞ。 昨晩は風も無かったのに、そんなに疲れていたらいかんな。 この先どうするつもりだ?」 彼は、小鳥たちを狙って海にまで来る鷹のことを考えた。 しかし何も言わなかった。 言っても鳥には理解できないし、言わなくてもすぐに分かることだ。 「小鳥よ、しっかり休んで行けよ」彼は言った。 「それから陸のほうへ飛ぶんだ。 後は運任せさ、人間も鳥も魚も同じだろう?」 会話は老人を元気づけた。 彼の背中は夜のうちに硬くなって、いまやひどく痛んでいた。 「よかったら、 家 ( うち )に泊まるといい」彼は言った。 「しかし残念だが、帆を上げて陸まで連れてってやるというわけにはいかん。 ちょうど風も出てきたところだがな。 いかんせん、俺には連れがいるんだ」 その時、魚が突然ふらついて、老人は 舳先 ( へさき )に引き倒された。 ふんばってロープを送り出したからよかったものの、そうしなければ水の中に引きずり込まれていただろう。 ロープが引っ張られたので小鳥は飛び立った。 小鳥が去るのを見ている余裕は老人には無かった。 彼は右手で慎重にロープを握り、自分の手から血が流れていることに気付いた。 「奴は、どこか痛かったんだろうな」彼は声に出して言った。 そして、魚の向きを変えられないかとロープを引っ張ってみた。 しかし、切れる寸前まで引くと、そこで張りを安定させ、後ろに体重をかけてロープを支えた。 「魚よ、そろそろこたえてきただろう」彼は言った。 「本当のところ、俺も同じだ」 彼はあたりを見回して鳥を探した。 仲間が欲しかったからだ。 鳥はもういなかった。 長居はしなかったんだな、老人は思った。 しかし岸までの道のりはもっと辛いぞ。 魚に引っ張られて手を切るなんて、俺は何をやってるんだ。 ずいぶん馬鹿になったもんだ。 いや、きっと小鳥のことなんか考えていたせいだな。 自分の仕事に集中しよう。 力が抜けてしまわないように、マグロを食わなければ。 「あの子がここにいてくれたら。 それに、塩があったらなあ」彼は声に出してそう言った。 ロープの重みを左肩に掛けかえ、慎重に膝をついて、彼は海水で手を洗った。 そしてしばらく海の中に手を浸して、自分の血が水中に尾を引く様子を見ながら、船の動きが生む水の抵抗をその手に感じ続けていた。 「ずいぶん速度が落ちたな」彼は言った。 もう少し手を塩水に浸しておきたいと思ったが、老人は、また魚が突然ふらついたりすることを心配した。 彼は立ち上がって気を引き締め直し、手を太陽にかざした。 ロープにこすれて皮膚が切れたにすぎない。 しかし、大事な部分だ。 仕事を終えるには両手が必要なのだから、始める前から怪我をすることは避けたかった。 「さあ」手が乾くと彼は言った。 「小さいマグロを食わなきゃいかん。 手鉤 ( ギャフ )を使えば届くな。 このままここで食おう」 彼は膝をつき、船尾のマグロのほうに 手鉤 ( ギャフ )を伸ばした。 そして予備のロープを避けつつマグロを引き寄せる。 再びロープを左肩で支え、左の手と腕に力を入れつつ、 手鉤 ( ギャフ )の先からマグロを外して、 手鉤 ( ギャフ )は元の場所に戻した。 片方の膝で魚を押さえる。 そして頭の後ろから尾に向かって縦に刃を入れ、赤黒い魚肉を切り出した。 くさび形の塊だ。 彼はそれを、背骨のそばから腹の方向へ切った。 六つの切り身ができると、それを舳先の板の上に並べる。 ナイフをズボンで拭き、残った骨の尻尾をつまんで海に投げ捨てた。 「一切れ丸ごとは食べられんな」そう言って彼は、切り身の一つにナイフを入れた。 ロープは変わらず強く引き続けている。 と、左手が引きつりを起こした。 重いロープをきつく握ったままの左手を、彼はうんざりして眺めた。 「なんて手だ」彼は言った。 「つりたきゃつるがいい。 鉤爪 ( かぎづめ )にでもなってしまえ。 何の役にも立たないぞ」 間抜けめ。 そう思いながら彼は、斜めに走るロープの先の暗い海を見下ろした。 食わなきゃいかん、手に力をつけるんだ。 手が悪いわけじゃない。 もう長い時間、あの魚とこうしているんだからな。 永遠にでも続けてやる。 さあ、マグロを食わねば。 一切れをつまみあげ、口に入れて、ゆっくり噛んだ。 まずくはない。 よく噛んで、残らず栄養を吸収するんだ。 彼は考えた。 ライムかレモンか、塩でもあればいいんだが。 「具合はどうだ?」彼は、つっている手に向かって尋ねた。 ほとんど死後硬直のように硬くなっている。 「お前のために、もう少し食うからな」 彼は、二つに切ったうちの残りの一切れを口に入れた。 じっくりと噛んでから、皮を吐き出す。 「さあ、どうだ? そう早くは分からないか?」 彼は次の切り身を取り、そのまま口に入れて噛んだ。 「力に溢れた強い魚だ」彼は思った。 「シイラじゃなくこいつを釣れたのは幸運だったな。 シイラでは味がいいだけだ。 こいつは旨みとは無縁だが、力がいっぱいに詰まってる」 しかし実際の味を全く無視するのも無粋というものだ、と彼は思った。 塩があれば良かったんだが。 残しておくと、日に当たって腐るか干からびるか分からないし、腹は減っていなくとも全部食べてしまったほうがいいな。 あの魚は落ち着いて安定してる。 食べてしまって、後に備えよう。 「手よ、耐えろ」彼は言った。 「お前のために食うんだから」 あの魚にも食わせてやりたい、と彼は思った。 奴は我が兄弟だ。 しかし殺さなければいけない。 そのためには強くいなければ。 ゆっくりと、念入りに噛んで、彼はくさび形の魚肉を全て食べ切った。 彼は立ち上がり、ズボンで手を拭いた。 「さあ」彼は言った。 「もうロープを放してしまえ。 お前が間抜けなことをやめるまで、俺は右手だけで奴を制してやる」彼は、左手が握っていた重いロープを左足で押さえ、背中にかかる力に抵抗して後方に体重をかけた。 「引きつりが治ることを祈る」彼は言った。 「なにしろ、奴がどうするつもりなのか分からないからな」 それにしても奴は落ち着いている。 彼は考えた。 計画通りということか。 だが、どんな計画だろう、と彼は思った。 そして俺の計画はどうなんだ。 俺は奴に合わせて即席でやるしかない。 奴はでかいからな。 奴が跳ね上がれば、殺すことができる。 ところが奴はいつまでも深く潜っている。 それなら、俺もいつまでも付き合おう。 彼は、ひきつる左手をズボンにこすりつけ、指を鎮めようとした。 しかし手は開かない。 日に当たっていれば開くだろう、彼はそう思った。 力のある生のマグロが消化されたら開くかもしれない。 開く必要があれば、何が何でも開いてやるさ。 だが、いま無理やり開こうとは思わん。 自然に開いて、ひとりでに元に戻るのが一番だ。 やはり夜のうちに酷使しすぎたか。 いくつもロープを切ったりほどいたりしなけりゃいけなかったからな。 老人は海を見渡して、今の自分がどれほど孤独かを思った。 だが彼は、深く暗い水の中のプリズム、前方に延びたロープ、 凪 ( な )いだ海の奇妙なうねりを、眺めることができた。 雲は貿易風によって成長していく。 前方に目を向けると、海上に広がる空に、鴨の群れが飛ぶ様子がくっきりと刻まれて見えた。 その姿はやがてぼやけ、そして再びくっきりと現れた。 彼は、海の上では孤独な者などいないのだと思った。 小さな船に乗っていて陸地が視界から消えると、やたらと怖がる連中もいる。 確かに、天候の急変がある季節ならそれは正しい。 しかし今はハリケーンの季節だ。 ハリケーンの季節にハリケーンが来ていなければ、一年で最高の時期なんだ。 ハリケーンが来ている時は、何日も前から空にその兆候が見える。 沖に出ていればな。 陸からでは何を探していいか分からないだろう。 彼はそう思った。 それに、陸地の存在が雲の形に影響してしまう。 ともかく、今はハリケーンは来ていない。 彼は空を見た。 白い 積雲 ( せきうん )が、よくあるアイスクリームのように積み重なっている。 さらに上には、九月の高い空を背景にして、 巻雲 ( けんうん )が羽毛のように細く伸びている。 「 軽風 ( ライト・ブリサ )だ」彼は言った。 「魚よ、天気はお前より俺に味方しているな」 まだ引きつっている左手を、彼はゆっくりほぐそうとしていた。 引きつりは大嫌いだ、と彼は思った。 これは自分の体の裏切りだ。 あの子がここにいれば、肘から先を揉んでほぐしてくれるんだがな。 まあ、じきにほぐれるだろう。 その時、右手に感じるロープの引きに変化が生じた。 見ると、水中へ伸びる傾斜の角度が変わっている。 彼はロープに体重をかけて引きながら、左手を素早く強く太腿に叩きつけた。 ロープがゆっくりと傾きを変え、水平に近づくのが見えた。 「奴が来る」彼は言った。 「手よ、頼むぞ。 しっかりしてくれ」 ロープはゆっくり確実に上がってくる。 やがて、船の前方の海面がゆらめき、魚が姿を現した。 さらに浮上は止まらず、水が体の左右に流れ落ちる。 魚は太陽の下で輝いた。 頭と背は暗い紫色だ。 側面の幅広い縦縞は、光に照らされて明るい薄紫に見えた。 くちばしは野球のバットのように長く、 剣 ( レイピア )のように尖っていた。 魚は全身を露わにする高さまで水面から跳ねると、ダイバーのように滑らかに、再び潜っていった。 老人は 大鎌 ( おおがま )の刃のような尾が沈んでいくのを見た。 そしてロープが走り始める。 「この船より二フィートはでかいな」老人は言った。 ロープは素早く、しかし一定の速さで出て行く。 魚に動揺は無い。 老人は両手を使って、ロープが切れないように力を調節しようとした。 一定の力で引いて速度を落としてやらなければ、魚はロープを全て引っ張り出し、ついにはちぎってしまう。 大した魚だ。 が、思い知らせてやらねばいかん。 彼は思った。 奴自身の力に気づかせてはいけないし、突っ走ればどうにかなると悟られてもいけない。 俺が今の奴の立場なら、当たって砕ける覚悟で全力を尽くすだろう。 しかしありがたいことに、奴らには、殺す側の人間ほどの知性はない。 気高さや能力では奴らのほうが上だが。 老人は大きな魚をたくさん見てきた。 千ポンド以上の魚に何度も出会ったし、その大きさのものを捕らえたことも生涯に二度ある。 しかし、その時は一人ではなかった。 今は一人だ。 陸地も見えない場所で、これまで見たうちで最も大きく、これまで聞いたことのあるどの魚よりも大きい相手に、彼はしがみついていた。 左手はまだ、握られた鷲の鉤爪のようにこわばっている。 だが引きつりは治るだろう。 彼は思った。 きっと治って、右手を助ける。 あの魚とこの二本の手は、いわば三兄弟だ。 必ず治る。 引きつりはこの手にはふさわしくないんだ。 魚は再び速度を落とし、元のペースに戻っていた。 なぜ奴は跳ねたんだ。 老人は考えた。 まるで、自分のでかさを見せつけるようだった。 とにかく、これで分かった。 こっちも、俺がどんな人間か見せつけてやりたいものだ。 だがそうすると、引きつった手を見られることになる。 俺を俺以上に見せなければいかん。 そして実際、俺は俺以上になるんだ。 あの魚になりたい、と彼は思った。 意志と知力しか持たない俺に向かって、持てる全てでぶつかってくるあの魚に。 老人は楽な姿勢で船べりにもたれ、襲ってくる痛みに耐えた。 魚は 弛 ( たゆ )みなく泳ぎ、船は暗い海をゆっくりと進む。 東から吹いてきた風で、海面は少し 波立 ( なみだ )っていた。 正午には、老人の左手は治った。 「お前には悪い知らせだな」そう言いながら、彼は肩を覆う袋の上のロープの位置をずらした。 彼は楽にしていたが、痛みはあった。 しかし自分では、痛いことを全く認めなかった。 「俺は信心深くはないが」彼は言った。 「奴を捕まえられるように、『主の祈り』を十回と、『アヴェ・マリア』を十回唱えよう。 そして捕まえた暁には、きっとコブレの聖母にお参りする。 誓ってそうする」 彼は祈りの言葉を機械的に唱え始めた。 あまりの疲労で、何度か文句を思い出せなくなったが、そういう時は言葉がひとりでに出てくるように早口で唱えるのだった。 『主の祈り』より『アヴェ・マリア』のほうが唱えやすいようだ。 「めでたし、 聖寵 ( せいちょう )充ち満てるマリア、 主 ( しゅ ) 御身 ( おんみ )と共にまします。 御身は女のうちにて 祝 ( しゅく )せられ、 御胎内 ( ごたいない )の 御子 ( おんこ )イエズスも祝せられ 給 ( たも )う。 天主の 御母 ( おんはは )聖マリア、 罪人 ( つみびと )なるわれらのために、今も臨終のときも祈り給え。 アーメン」そして付け加えた。 「聖母よ、この魚の死のために、祈り給え。 素晴らしい魚ですがね」 祈りを唱えていると気分は良くなったが、痛みは変わらず、むしろ少し増したようでもあった。 彼は 舳先 ( へさき )の板にもたれて、特に意識することなく、左手の指を動かし始めた。 穏やかな風が出てきたが、太陽はもう熱い。

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ヘミングウェイ、福田恆存/訳 『老人と海』

ヘミング ウェイ 老人 と 海

影響を与えたもの• , , , , , サイン 受賞者 受賞年: 受賞部門: 受賞理由:""に代表される、叙述の芸術への熟達と、現代のストーリーテリングの形式に及ぼした影響に対して アーネスト・ミラー・ヘミングウェイ(Ernest Miller Hemingway、 - )は、出身の・。 ヘミングウェイによって創作された独特で、シンプルな文体は、冒険的な生活や一般的なイメージとともに、20世紀の文学界と人々のライフスタイルに多大な影響を与えた。 ヘミングウェイは、ほとんどの作品を1920年代中期から1950年代中期に書き上げて、にを受賞するに至った。 彼は、6つの短編集を含めて7冊の小説と2冊のノンフィクションを出版した。 死後、3冊の小説、4つの短編集、3冊のノンフィクションが発表された。 これらは、の古典として考えられている。 生涯 [ ] (現在の)に生まれる。 父は、母は元で、六人兄弟の長男だった。 しかし、男の子よりも女の子を欲しがっていた母は、ヘミングウェイが幼い時には強制的にをさせる変わった性癖があり、ヘミングウェイはそのような母の性癖を子供心に疎んじていたという。 一方、父は活動的な人物で、ヘミングウェイは父からや、などの手ほどきを受け、生涯の人格を形成していった。 高校卒業後の、の地方紙「 ()」 : The Kansas City Star 紙の見習いとなるも退職。 翌年、の一員としてにおけるの戦線に赴くが、その戦線で負傷兵を助けようとして自らも瀕死の重傷を負う。 この時に病院で出会った7歳年上の看護婦に恋をしたが、この恋は実らずに終わった。 戦後は・にて「」 : Toronto Star 紙のフリー記者をつとめ、特派員としてに渡りらとの知遇を得て小説を書き始めた。 行動派の作家で、には側としてにも積極的に関わり、その経験を元に行動的な主人公をおいた小説をものにした。 『』『』などはそうした経験の賜物であり、当時のに映画化の素材を提供した。 短編には簡潔文体の作品が多く、これらは、と後に続く文学の原点とされている。 1954年、『』が大きく評価され、を受賞。 同年、二度の航空機事故に遭う。 二度とも奇跡的に生還したが、重傷を負い授賞式には出られなかった。 以降、これまでの売りであった肉体的な頑強さや、行動的な面を取り戻すことはなかった。 晩年は、事故のによるなど精神的な病気に悩まされるようになり、執筆活動も次第に滞りがちになっていった。 7月2日の早朝、によるを遂げた(当初は銃の手入れの際に起きた暴発による事故死と報じられたが、後に遺書が発見されたため、自殺と断定された)。 家族 [ ]• エリザベス・ハドリー・リチャードソン 1921年9月3日結婚、1927年4月4日離婚 息子 ジャック・ハドリー・ニカノール・ヘミングウェイ 通称バンビ 1923年10月10日 - 2000年12月1日。 「青春は川の中に フライフィッシングと父ヘミングウェイ」出版 孫娘 ジョーン・ヘミングウェイ 孫娘 1954年2月16日 - 1996年7月2日。 女優 孫娘 1961年11月22日 -。 ポーリン・ファイファー 1927年5月19日結婚、1940年11月4日離婚 息子 パトリック 1928年6月28日 - 孫娘 ミーナ・ヘミングウェイ 息子 グレゴリー・ヘミングウェイ 1931年11月12日 - 2001年10月1日。 "Papa: A Personal Memoir" 1976 出版。 性転換してグロリアと名乗る 孫 パトリック、エドワード 作家兼イラストレーター 、ショーン、ブレンダン プログラマー 、バネッサ、マリア、ジョン 作家 、ロリアン 作家• マーサ・ゲルホーン 1940年11月21日結婚、1945年12月21日離婚• メアリ・ウェルシュ・ヘミングウェイ 1946年3月14日結婚。 自伝 "How It Was" 1976 出版 ヘミングウェイの家 [ ] フロリダ州キーウェストの家 ヘミングウェイは世界中の様々な場所に居を構えたが、現在アメリカのイリノイ州オークパーク、フロリダ州、キューバのサンチアーゴ・デ・パウラが公開されている。 オークパークのヘミングウェイ邸はヘミングウェイの生家であり、一般に公開されている。 通りを挟んだすぐ近所には、ヘミングウェイ博物館が設けられている。 生家の方は、母グレースの設計で建てられた、3階建ての広壮な屋敷で、ヘミングウェイが6歳の時に引っ越しているが、こちらは現在は私有地となっており、一般には公開されていない。 キーウェストの屋敷()は建物自体が博物館として旅行客に公開されており、ヘミングウェイの飼っていた猫の子孫が現在でも多く住んでいる。 キューバの家はフィンカ・ビヒアとして知られており、現在では博物館として屋敷の一部が公開されている。 ヘミングウェイが人生の3分の1を暮らした場所として、研究上においても重要な拠点となっている。 キューバの経済的問題のため、建物自体の老朽化が進行していたが、2008年にアメリカの修復グループが改修工事を済ませ、現在では元の状況を保っている。 ヘミングウェイの猫 [ ] キーウェストのヘミングウェイの家の多指症のネコ。 この黒猫は四肢合わせて26本の指がある ヘミングウェイは好きで、知己の船長から2匹の猫を貰い受けている。 この猫はの結果か足の指が6本あるで、ヘミングウェイは幸運を呼ぶ猫だと信じていた。 キーウェストのヘミングウェイ博物館では、この猫の直系子孫が50匹ほど今も飼われており、6本指の遺伝子を受け継いでいる。 しかし、これらの猫は、米農務省より指定の設備と動物園としての認可を受けなければ認められないと勧告され、博物館からの立ち退きを迫られていた。 裁判所は博物館側の訴えを却下し、当事者同士で話し合うよう判決を下したが、博物館のあるキーウェスト市当局が、「6本指のヘミングウェイの猫たちは、歴史的かつ社会的に意義があり、観光面でも重要」と位置づけ、農務省が見做した展示物としての動物ではなく、飼い猫は1世帯につき4匹までとする条例の例外として認め、 博物館側を支持。 そして敷地内からネコが出て行かないためのフェンスを博物館の責任で設置することを条件に農務省側との合意に達した。 遺構 [ ] 博物館 [ ] 『』の舞台ともなったのには、滞在していたとされるホテルの一室を改装したアーネスト・ヘミングウェイ博物館があり、遺品などが展示されていたが、、火災により焼失した。 パパ・ダイキリ [ ] のカクテルの代表格である フローズン・は、ヘミングウェイが愛飲したことで知られる。 ヘミングウェイが好んで呑んだとされるスタイルは パパ・ダイキリと名づけられた(ヘミングウェイは、も愛飲した)。 主要著作 [ ] キューバにて(1950年) 翻訳は入手しやすいものを中心に紹介する。 また、三笠書房の「ヘミングウェイ全集」には出版時期により収録巻が異なる複数のバージョンがある。 長編小説 [ ]• 『』 "The Torrents of Spring", 1926年 訳 旧河出文庫 、訳 「ヘミングウェイ全集」三笠書房• 『』 "The Sun Also Rises", 1926年 訳(新潮文庫)、訳(ハヤカワ文庫)、訳(集英社文庫)、訳(岩波文庫)、高村勝治訳 「ヘミングウェイ全集」三笠書房• 『』 "A Farewell to Arms", 1929年 高見浩訳(新潮文庫)、訳 光文社古典新訳文庫 、竹内道之助訳 「ヘミングウェイ全集」三笠書房• 『』 "To Have and Have Not", 1937年 佐伯彰一訳 「ヘミングウェイ全集」三笠書房• 『』 "For Whom the Bell Tolls", 1940年 高見浩訳(新潮文庫)、大久保康雄訳(「ヘミングウェイ全集」三笠書房)• 『』 "Across the River and into the Trees", 1950年 大久保康雄訳 「ヘミングウェイ全集」三笠書房• 『』 "The Old Man and the Sea", 1952年 福田恆存訳 新潮文庫、「ヘミングウェイ全集」三笠書房 、訳(集英社 世界文学全集77) 吉田愛一郎(オルタナs)• 『』 "Islands in the Stream", 1970年:生前未発表。 スクリブナー社と4番目の妻メアリが編集 沼沢洽治訳 新潮文庫、「ヘミングウェイ全集」三笠書房• 『』 "The Garden of Eden", 1986年:生前未発表。 スクリブナー社のトム・ジェンクスが編集 沼沢洽治訳 集英社文庫• 『ケニア』 "True at First Light", 1999年:生前未発表。 息子パトリックが編集 金原瑞人訳 アーティストハウス 短篇集 [ ]• 『三つの短編と十の詩』 "Three Stories and Ten Poems", 1923年 「北ミシガンで」 Up in Michigan 「ぼくの父」 My Old Man 「季節はずれ」 Out of Season 「ぼくの父」と「季節はずれ」は『われらの時代』に再収録された。 「北ミシガンで」は新潮文庫「全短編1」に収録• 『われらの時代』 "In Our Time", 1924年 「インディアンの村」 Indian Camp:物語 「医師とその妻」 The Doctor and the Doctor's Wife:ニック・アダムズ物語 「ある訣別」 The End of Something:ニック・アダムズ物語 「三日吹く風」 The Three-Day Blow:ニック・アダムズ物語 「ファイター」 The Battler:ニック・アダムズ物語 「ごく短い物語」 A Very Short Story 「兵士の故郷」 Soldier's Home 「革命家」 The Revolutionist 「エリオット夫妻」 Mr. and Mrs. Elliot 「雨のなかの猫」 Cat in the Rain 「季節はずれ」 Out of Season 「クロス・カントリー・スノウ」 Cross-Country Snow:ニック・アダムズ物語 「ぼくの父」 My Old Man 「二つの心臓の大きな川 第一部」 Big Two-Hearted River:Part1:ニック・アダムズ物語 「二つの心臓の大きな川 第二部」 Big Two-Hearted River:Part2:ニック・アダムズ物語 新潮文庫「全短編1」に収録• 『男だけの世界』 "Men Without Women", 1927年 「敗れざる者」 The Undefeated 「異国にて」 In Another Country:ニック・アダムズ物語 「白い象のような山並み」 Hills Like White Elephants 「」 The Killers 1927 :ニック・アダムズ物語 「ケ・ティ・ディーチェ・ラ・パートリア 祖国は汝に何を訴えるか? 」 Che Ti Dice la Patria? 「五万ドル」 Fifty Grand 「簡単な質問」 A Simple Enquiry 「十人のインディアン」 Ten Indians:ニック・アダムズ物語 「贈り物のカナリア」 A Canary for One 「アルプスの牧歌」 An Alpine Idyll:ニック・アダムズ物語 「追い抜きレース」 A Pursuit Race 「今日は金曜日」 Today is Friday 「陳腐なストーリー」 Banal Story 「身を横たえて」 Now I Lay Me:ニック・アダムズ物語 高見浩訳「全短編1」 新潮文庫 に収録• 『勝者に報酬はない』 "Winner Take Nothing", 1933年 「嵐のあとで」 After the Storm 「清潔で、とても明るいところ」 A Clean, Well-Lighted Place 「世の光」 The Light of the World:ニック・アダムズ物語 「神よ、男たちを楽しく憩わしめたまえ」 God Rest You Merry, Gentlemen 「海の変化」 The Sea Change 「最前線」 A Way You'll Never Be:ニック・アダムズ物語 「オカマ野郎の母親」 The Mother of a Queen 「ある新聞読者の手紙」 One Reader Writes 「スイス賛歌」 Homage to Switzerland 「死ぬかと思って」 A Day's Wait 「死者の博物誌」 A Natural History of the Dead 「ワイオミングのワイン」 Wine of Wyoming 「ギャンブラーと尼僧とラジオ」 The Gambler, the Nun, and the Radio 「父と子」 Fathers and Sons:ニック・アダムズ物語 高見浩訳「全短編2」 新潮文庫 に収録• 『第五列と最初の四九の短編』 "The Fifth Column and the First Forty-Nine Stories", 1938年 戯曲「第五列」および、これまでの「北ミシガンで」と『われらの時代』、『男だけの世界』、『勝者に報酬はない』の短編に以下を加えた49の短編を収録 「フランシス・マカンバーの短い幸福な生涯」 The Short Happy Life of Francis Macomber 「世界の首都」 The Capital of the World 「」 The Snows of Kilimanjaro 「橋のたもとの老人」 Old Man at the Bridge 「スミルナの埠頭にて」 On the Quay at Smyrna 「第五列」は「ヘミングウェイ全集」 三笠書房 に収録。 「スミルナの埠頭にて」は高見浩訳「全短編1」 新潮文庫 に、「フランシス・マカンバーの短い幸福な生涯」と「世界の首都」は「全短編2」に、「橋のたもとの老人」は「全短編3」に収録• 『第五列とスペイン内戦に関する四つの短編』 "The Fifth Column and Four Stories of the Spanish Civil War", 1969年 戯曲「第五列」および以下の4短編を収録 「密告」 The Denunciation 1938年 「蝶々と戦車」 The Butterfly and the Tank 1938年 「戦いの前夜」 Night Before Battle 1939年 「分水嶺の下で」 Under the Ridge 1939年 4つの短編は高見浩訳「全短編3」 新潮文庫 に収録• 『ニック・アダムズ物語』 "The Nick Adams Stories", 1972年 以下の未発表短編を含む 「三発の銃声」 Three Shots 「インディアンは去った」 The Indians Moved Away 「最後の良き故郷」 The Last Good Country 「ミシシッピー川を渡って」 Crossing the Mississippi 「上陸前夜」 Night Before Landing 「サマー・ピープル」 Summer People 「婚礼の日」 Wedding Day 「創作について」 On Writing 高橋正雄他訳 三笠書房 「最後の良き故郷」と「サマー・ピープル」は高見浩訳「全短編3」 新潮文庫 に収録• "The Complete Short Stories of Ernest Hemingway: The Finca Vigia Edition" 1987年 上述の49短編と4短編および「最後の良き故郷」と「サマー・ピープル」の他、以下を収録 「ある渡航」 One Trip Across 1934年:「持つと持たぬと」のベース 「密輸業者の帰還」 The Tradesman's Return 1936年:「持つと持たぬと」のベース 「だれも死にはしない」 Nobody Ever Dies 1939年 「善良なライオン」 The Good Lion 1951年 「一途な雄牛」 The Faithful Bull 1951年 「盲導犬としてではなく」 Get a Seeing-Eyed Dog 1957年 「世慣れた男」 A Man of the World 1957年 「アフリカ物語」 An African Story:『』の作中作 「汽車の旅」 A Train Trip:生前未発表 「ポーター」 The Porter:生前未発表 「十字路の憂鬱」 Black Ass at the Crossroads:生前未発表 「死の遠景」 Landscape with Figures:生前未発表 「何を見ても何かを思いだす」 I Guess Everything Reminds You of Something:生前未発表。 三男グレゴリーに関するエピソード。 「本土からの吉報」 Great News from the Mainland:生前未発表 「異郷」 The Strange Country:生前未発表。 『』ビミニ編の祖型の一部 高見浩訳「全短編3」新潮文庫に収録。 『ヘミングウェイ短篇集』 編訳、岩波文庫(上下)、改版1987年。 旧版は「全集」三笠書房• 『ヘミングウェイ短篇集』 編訳、ちくま文庫、2010年 その他 [ ]• 『午後の死』 "Death in the Afternoon", 1932年 訳 「ヘミングウェイ全集」三笠書房• 『アフリカの緑の丘』 "Green Hills of Africa", 1935年 訳 「ヘミングウェイ全集」三笠書房• 『スペインの大地』 "The Spanish Earth", 1938年 滝川元男訳 「ヘミングウェイ全集」三笠書房• 『移動祝祭日』 "A Moveable Feast", 1964年:生前未発表 高見浩訳、新潮文庫/訳、三笠書房、のち「全集」、岩波書店同時代ライブラリー、土曜社 Kindle• 『狩と旅と友人たち』 "By-Line", 1967年:没後出版された評論・書評・著名記事集 松井弘道、、原口遼訳 「ヘミングウェイ全集」三笠書房• 『危険な夏』 "The Dangerous Summer", 1985年:没後出版された闘牛に関するルポルタージュ 永井淳訳、角川文庫/諸岡敏行訳、草思社/訳 「ヘミングウェイ全集」三笠書房• 『』 1998年 作・演出• 「」 - 著者不明の短編で、ヘミングウェイ作と言われることもある• - 原作のアニメ。 劇中ルパン三世が追い求めるお宝の一つとしてヘミングウェイの遺稿がキーアイテムとなる。 主な研究書 [ ]• 『ヘミングウェイと猫と女たち』(新潮社、1990年)• (勉誠出版、2005年)• 編(ミネルヴァ書房、2006年)• (松籟社、2008年)• 前田一平(南雲堂、2009年)• 編(臨川書店、2011年)• ・(勉誠出版、2012年)• 編(松籟社、2013年)• 千葉義也(松籟社、2013年)• (松籟社、2015年) 脚注 [ ] 関連 のリンク.

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