葬式 ごっこ。 「生きジゴク」になっちゃうよ……教員も参加した“葬式ごっこ”が奪った中学2年生の命

東京都中野富士見中学校いじめ自殺事件

葬式 ごっこ

2019年、文部科学省は「2018年度のいじめ認知件数は約54万件にのぼる」という調査結果を報告している。 この数値は2017年度比で約13万件増加しているが、施設別に見ると小学校での増加が特に多い。 また、「いじめにより当該学校に在籍する児童等の生命,心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき」「いじめにより当該学校に在籍する児童等が相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認めるとき」と定義される「重大事態」は602件あった。 こちらも前年度比88件増加しており、いじめ行為の深刻化に歯止めがかからない状況だ。 『学校が子どもを殺すとき』 (論創社) 長年ウェブと生きづらさをテーマに取材を進めているライター・渋井哲也氏の 『学校が子どもを殺すとき』 (論創社)より、一部を抜粋する。 その文書では、いじめはこう定義されていた。 (1)自分より弱い者に対して一方的に、(2)身体的・心理的な攻撃を継続的に加え、(3)相手が深刻な苦痛を感じているものであって、 学校としてその事実(関係児童生徒、いじめの内容等)を確認しているもの。 なお、起こった場所は学校の内外を問わないもの。 86年以前でも、いじめやいじめに起因した自殺は起きていたし、メディアで報道されることもあった。 しかし、文部省はいじめに対するアクションを起こしてこなかった。 そんな文部省が、いじめに対して本腰を入れることになったのが、86年だと言える。 この定義を【86年の定義】としておく。 調査の直前には、世間を騒がせたいじめ自殺が起きている。 「このままじゃ、『生きジゴク』になっちゃうよ」 86年2月1日、東京・中野区の中野富士見中学校2年の男子、裕史(享年13)が、父親の実家に近い岩手県盛岡市のJR盛岡駅前にあるショッピングセンターのトイレ内で首吊り自殺をした。 「家の人へ、そして友達へ」と書かれた遺書が残されていた。 突然、姿を消して申し訳ありません。 遺書では実名)とかにきけばわかると思う。 俺だってまだ死にたくない。 だけどこのままじゃ、「生きジゴク」になっちゃうよ。 ただ、俺が死んだからって他のヤツが犠牲になったんじゃいみないから。 だから、もう君達もバカな事をするのはやめてくれ。 最後のお願いだ。 裕史は、10人ぐらいのグループのなかでパシリ(使いっ走り)をしており、ちょっとしたことでメンバーに殴られていた。 担任は知っていたが、指導をしていない。 さらに、教室で葬式ごっこの対象になった際には、教師も参加していたことがわかった。 このいじめ自殺事件は、今日まで代表的ないじめ事件として語りつがれている。 クラス全員と教師3名による「葬式ごっこ」 この自殺をめぐっては、86年4月に警視庁がいじめの加害者16人を傷害と暴行容疑で書類送検した。 同年6月には、遺書に書かれていた生徒2人と両親、東京都と中野区を相手に損害賠償を求めて、遺族が東京地方裁判所に民事提訴した。 以下、訴訟の記録を元に、事件の概要を振りかえってみる。 この事件が注目をあびたのは、前述のとおり「葬式ごっこ」に教員が参加していたからだ。 判決文には、「2年A組の生徒数名は、同年11月中旬頃、裕史の不在の席で雑談していた際、欠席、遅刻の多い被害生徒が死亡したことにし、追悼のまねごと(葬式ごっこ)をして、驚かせようと言い出した者がいて、これに賛同し、実行に移すこととした」とある。 これに教師が加わったというのだ。 机には、「鹿川君(筆者注…被害生徒の名字)へ さようなら 2Aとその他一同より 昭和61年11月14日」と書かれた色紙が置かれ、そこには2年A組のほぼ全員の生徒と、ほかのクラスの2年生の一部、担任、英語科担当教師、音楽科担当教師、理科担当教師という4人の教諭によるコメントが書かれていた。 加害生徒の主犯格は「今までつかってゴメンね。 これは愛のムチだったんだよ」、担任は「かなしいよ」、英語科担当教師は「さようなら」、音楽科担当教師は「やすらかに」、理科担当教師は「エーッ」などと書いていた。 新たな交友関係も破壊された 遅刻して登校した裕史は、机のうえを見て「なんだこれ」と言った。 彼が登場すると、クラスのひとりが弔辞を読みあげた。 帰宅した裕史は、「こんなのもらっちゃった」と母親に色紙を見せた。 使いっ走りを拒んだ裕史は、グループのメンバーに平手打ちをくらうこともあった。 グループを抜けようとすれば、仲間はずれにしようとするムードが高まる。 結局、被害生徒は学校を欠席するようになっていく。 この段階で、裕史の家族と担任は話しあっていない。 裕史は新しい交友関係を作り、年末年始に高尾山へ自転車旅行に行く。 グループのメンバーたちが憤慨し、裕史と一緒に遊んでいた生徒たちに暴行を加える。 事実を把握しようとした教頭が当事者らに電話をしたものの、暴行の事実を否定した。 その後もいじめは続く。 転校の可能性を模索したが拒否。 86年1月31日、登校するかのようにして家を出た裕史は、登校もせず、帰宅もしなかった。 同年2月1日、盛岡駅ビル地下1階のトイレで、自殺をしているのを発見された。 遺品には、新しく買ったミュージックテープ、現金331円、そして、保坂展人著『やったね元気君ーー体罰いじめに負けなかったぜ』と著『幸か不幸か』という2冊の本が含まれていた。 以下、裁判の判決文を参照しつつ、何がいじめとして認められたのかを検証してみよう。 教師が生徒のいじめを止めなかったのは違法 東京地裁の判決では、公立学校設置者の安全保持義務は、学校教育の場自体だけでなく、密接に関連する生活場面でも、ほかの生徒からもたらされる生命、身体などへの危険にも及ぶ。 つまり、「学校事故の発生すべき注意義務」があるとしたうえで、いじめについて次のように言及した。 いじめの問題を単なるいたずらやけんかと同一視したり、生徒間の問題として等閑視することは許されない状況にあるとの基本的認識に立って、その解決のためには、いじめへの予防及び対応等の緊急の措置とともに、生徒の生活体験や人間関係を豊かなものにしていく長期的な観点に立った施策が必要である。 教師は生徒の苦痛を予見できるか 一方で、「いじめの行為といっても、…(中略)…必ずしもそれ自体が法律上違法なものであるとは限らないのであるから、子供の人権上又は教育上の配慮から、それを規制するためにとり得る方策にもおのずから限界があって、多くの場合においては、教育指導上の措置に限定されざるを得ないことも明らかである」と述べ、いじめ自体が違法とは限らず、指導の対象に限定されるとも指摘する。 そのうえで、いじめの内容や程度、被害生徒と加害生徒の年齢、性別、性格、家庭環境などを考慮して、「安全保持義務」について考慮するとしている。 くわえて、「(被害生徒に対する)身体への重要な危険又は社会通念上、許容できないような深刻な精神的・肉体的苦痛を招来することが具体的に予見されたにもかかわらず、過失によってこれを阻止するためにとることができた方策をとらなかったときに、初めて安全保持義務違背の責めを負う」とした。 つまり、条件付きだが、生徒にいじめがあり、教師が生徒の苦痛を予見できる場合、いじめを止めなかったことは違法であると裁判所は認めたのである。 地裁は「葬式ごっこは自殺と直結しない」と評価した しかし、地裁判決は、「葬式ごっこ」については次のように評価した。 『葬式ごっこ』については、裕史の死後にその死をいじめによる自殺という観点からとらえる一連の報道の中ではじめて表面化し、教師までが加担していたとして非常に陰湿な出来事であるかのように一般には報道されたけれども、被害生徒が当時これを自分に対するいじめとして受け止めていたことを認めるに足りる証拠はなく……(以下略) つまり、被害生徒が葬式ごっこをいじめととらえていたとは言えない、としたのだ。 葬式ごっこに教師が参加したことについては、「教師らが右のような生徒らの悪ふざけに参画したことについては、教育実践論上は賛否両論がみられるけれども、いずれにしてもひとつのエピソードであるに過ぎないのであって、これを被害者の自殺と直結させて考えるのは明らかに正当ではない」と述べた。 地裁判決は、葬式ごっこに教師が参加したことを「ひとつのエピソード」としてしかと捉えていない。 「当時社会問題のひとつとされていたような典型的・構造的ないじめの事例」と見ることはできない、ということである。 自殺の予見性を認めず 長期間にわたる欠席があり、休むたびに「通院のために欠席をする」という不自然な電話連絡を自身がしていたことからも、被害生徒が深刻な苦痛に陥っていると教員が考えることはできた。 その意味で、安全保持義務があることは認めている。 一方で、「明白に自殺念慮を表白していたなど特段の事情がない限り、事前に蓋然性のあるものとしてこれを予知することはおよそ不可能」と、自殺の予見性は否定した。 いじめの発生やいじめによる苦痛と自殺とは「別個のこと」という判断だ。 この判決を不服とした遺族は、91年に控訴した。 94年5月、東京高等裁判所は、判決でいじめの評価を一部見直した。 地裁判決よりも、「葬式ごっこ」をいじめと認定した。 そして、葬式ごっこについても、「そのような自分を死者になぞらえた行為に直面させられた当人の側からすれば、精神的に大きな衝撃を受けなかったはずはないというべきであるから、葬式ごっこはいじめの一環と見るべきである」と評価を改めている。 兆候にきづいても「注意」に留まる教師 地裁判決では「ひとつのエピソードにすぎない」として、いじめとしては認めなかった。 だが、控訴審判決では「精神的に大きな衝撃を受けなかったはずはない」として、いじめとして認めた。 また、学校内外の被害生徒の動向に教師が気づいていたことも示された。 被害生徒が授業中に抜け出したり、欠席や遅刻が続いた状況があったため、8月8日に次のような手紙が担任から親に出されたことに言及したのである。 気が弱いということから、イジメラレル傾向があります。 僕も気をつけていますが、今の生徒は中々ずるがしこくうまく、彼を仲間にひき込もうとします。 イジメて悪いことでもやらせようとするんです。 しかし裕史は悪いことの出来る子ではありません。 だから、イジメラレルのかも知れません。 さらに、被害生徒がいじめの対象になることを学校側は予見していたことや、いじめの対象になっていることをも学校側は目撃していたことについて、「いじめに長期間にわたってさらされ続け、深刻な肉体的、精神的苦痛を被ることを防止することができなかったものであるから、中野富士見中学校の教員らには過失があるというべき」と指摘。 学校側の対処は、加害生徒のいじめ行為を注意するだけだったことを認めた。 いわき市のいじめ自殺判決は画期的過ぎた? しかし、「いじめを受けた者がそのために自殺するということが通常の事であるとはいい難い」として、控訴審判決も自殺の予見性は認めなかった。 つまり、一般的な教員ならば、いじめを受けた生徒が自殺するという結果をまねくことは認識できないと結論づけた。 当時は、いじめは、自殺のリスクとして捉えていないということなのだろう。 前出の福島県いわき市立小川中学校3年の男子生徒のいじめ自殺では、加害生徒の行為は「悪質ないじめ」であり、学校側にも過失があったとした。 安全配慮義務違反を判断する基準としては、「心身に重大な危害を及ぼすような悪質重大ないじめであることの認識が可能であれば足り」るとしていた。 中野富士見中学校のいじめ自殺の判決と比較した場合、裁判所によっていじめ自殺に関する司法の評価が分かれてしまっている実態が浮きぼりになった。 いや、中野富士見中のいじめ自殺は、いわき市のいじめ自殺のあとに起きた。 両者の判決を見るかぎり、いじめ自殺に関する司法の評価は後退したと筆者は考える。 もしくは、当時としては、いわき市のいじめ自殺判決が画期的過ぎたのかもしれない。 13歳少女が飛び降り自殺 残されたのは「みんな呪ってやる」のメッセージだった へ続く (渋井 哲也).

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事件の涙「鹿川裕史くん“葬式ごっこ”事件」回が悲しすぎると話題…感想・反応まとめ【ストーリーズ】 : つぶちゃん~Twitterまとめ~

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東京都中野富士見中学校いじめ自殺事件 — 教育資料庫. entry-card,. entry-card-thumb,. widget-entry-card-thumb,. related-entry-card-thumb,. entry-card-content,. entry-card-title,. entry-card-snippet,. 8em;max-height:7. 8em;line-height:1. entry-card-meta,. sns-share,. sns-share-message,. header,. ba-fixed,. ba-fixed. header,. ba-fixed. entry-category,. post-date,. post-update,. post-author,. ff-meiryo,. ff-noto-sans-jp,. wf-active. ff-noto-serif-jp,. wf-active. ff-mplus-1p,. wf-active. ff-rounded-mplus-1c,. wf-active. ff-kosugi,. wf-active. ff-kosugi-maru,. wf-active. ff-sawarabi-gothic,. wf-active. ff-sawarabi-mincho,. wf-active. 75em;opacity:. header-container,. main,. sidebar,. no-sidebar. content. no-scrollable-main. wp-caption-text,. content-top,. iwe-border img,. iwe-border-bold img,. iwe-shadow img,. iwe-shadow-paper img,. 16 ,0 0 0 1px rgba 0,0,0,. entry-card-thumb,. author-thumb,. blogcard-thumbnail,. related-entry-card-thumb,. popular-entry-card-thumb,. ect-vertical-card. entry-card-thumb,. 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東京都中野富士見中学校いじめ自殺事件

葬式 ごっこ

遺書が残されており、彼の自殺がいじめによるものだと判明した。 富士見中学校の生徒と教師 【鹿川君について】 鹿川裕史くんは生地問屋に勤めていた父・雅弘さんと、母・みどりさんの第一子として、1972年3月10日に生まれた。 「裕史」という名は母方の祖父がつけてくれたもので、「裕」は心の広いさまを表す漢字だという。 翌年には妹も誕生した。 1984年4月、富士見中学に進学。 【いじめの光景】 1985年4月、2年に進級した鹿川君はそれまで仲の良かった友達と別々のクラスになった。 だが富士見中学は生徒の9割以上が区立の中野神明小学校から入ってくる。 仲の良い生徒でなくても、互いによく知ったクラスメートたちだった。 鹿川くんはごく自然にクラス内のグループと親しくなっていく。 だが温和で152cmと小柄な鹿川君は買い食いのために店に走ったり、下校時にバッグを持たされるという役回りとなった。 いわゆる「パシリ」(当時はツカイッパ)である。 7月下旬には担任のF教諭が父・雅弘さんに「裕史くんが仲間の使い走りをさせられているようですよ」と連絡している。 このF教諭は定年を数年後に控えたおとなしい教師で、いじめの事実を知っていても生徒たちに強く指導することはなかった。 グループ内で下手に出ていた鹿川君に対するいじめは次第にエスカレートしていった。 いじめのグループは2年A組だけではなく、B組に1人、D組に3人など複数のクラスにまたがって存在していた。 遺書(下記)で名指しされていた2人は同じA組の主犯格である。 プロレスごっこの投げられ役など、鹿川君を「サンドバッグの状態だった」と話す生徒もおり、彼らから見て、鹿川君は「何をしてもいい」存在になってきた。 10月1日、鹿川君はフェルトペンで顔にヒゲを描かれ、廊下で踊らされる。 この時、通りかかった教師が間に入って注意している。 いじめは他にモデルガンの標的、積み上げられたイスと机に閉じ込められる、野球拳を強要して服を脱がせる(鹿川くんの相手はジャンケンで負けても服を脱がず)といったことが行なわれていた。 10月はじめ、グループはバンドを結成する。 鹿川くんはボーカルとドラム担当だった。 ただしマネージャー兼務。 ここでもパシリ扱い的で、3年生の指導を受ける際には、鹿川君を「使う」メンバーは倍増した。 この頃から鹿川くんはうつむき加減で多くなっていた。 10月15日かた17日まで、鹿川くんは家出をする。 家出の理由ははっきりしないが、F教諭に「お父さんが怖い」と言った。 そして11月には葬式ごっこが行われるのである。 【葬式ごっこ】 11月14日と15日、2Aのクラスでは鹿川君が死んだことにして、色紙を書き、教室で花や線香をあげるという「葬式」をした。 これはある生徒の「鹿川が死んだことにしようぜ」と言い出したことから始まり、昼の人気番組「笑っていいとも」の「安産コーナー」をヒントに、生と死を逆にして考えられたものである。 黒板の前には鹿川君の机が置かれ、そこには飴玉やミカンが並べられ、遺影と見たてて鹿川君の写真と牛乳ビンにさした花も置かれていた。 その横の色紙には「鹿川君へ さようなら 2Aと その他一同より 昭和60年11月14日」と書かれており、クラスの生徒の署名や寄せ書きがあった。 寄せ書きには「バーカ」「いなくなってよかった」「バンザイ」「ざまあみろ」などと書かれており、教室に掲げられていた鹿川君の係の名札を、「もう死んだ人だから」と、黒マジックで塗りつぶした。 当時、鹿川君はスケートボードで足に怪我をしており、遅刻が多く、この日も遅れて教室に入ってきた。 自分の机を見るなり、「なんだ、これー」と言って、笑いを浮かべたが、やがて黙り込んでしまった。 鹿川君はこの色紙を持って帰宅。 キョトンとした様子で家族にこう言ったという。 「これ見てどう思う?ここに先生も書いているんだよ!」 また鹿川君はのちに仲間に「俺、1度死んだんだよ」と漏らしている。 鹿川君は以前からシカト(無視)されてもいた。 こうした葬式ごっこはシカトの延長であり、彼のショックは相当なものだったというのは想像するにたやすい。 しかも、葬式ごっこには担任ら4人の教師まで参加していた。 教師らは生徒に「ドッキリだから」と言って頼まれて署名していた。 この時点で、いじめだと気づいていたのか気づかなかったかは知らないが、教師の立場として悪ふざけが過ぎているというのは普通の神経の持ち主なら誰でも理解できることだろう。 【終わらないいじめ】 11月26日、鹿川くんがグループの3人と一緒にいたとき、1年生の男子が鹿川君に「お前は弱虫だ。 俺の方が強い」と言ってきた。 この時、一緒にいた生徒に「おまえ、悔しくないのか」と言われ、鹿川くんは1年生とタイマンを張る事になった。 取っ組み合いとなり、双方とも大きなケガはなく終わったが、帰宅した鹿川くんの傷を見て雅弘さんが問い詰めた。 鹿川くんは一緒にいた3年生の名前だけをあげた。 雅弘さんはすぐにその3年生のところに抗議に行った。 この後、「チクった」鹿川くんはグループの数人に殴られることになった。 11月28日、鹿川君がA(主犯)から渡された1000円でジュースなどを買ってきた後、残り650円を渡さないまま、次の遊びに移った。 Aは数日後、鹿川くんに問いただすと「使ってしまった」と言った。 Aは鹿川君を南部青年館の空き部屋に連れこみ殴りつけた。 この一件については鹿川君は父親に話さなかったが、雅弘さんは断片的な話からA宅を訪れ、「あんたの息子をよく監視してくれ。 これ以上、息子にまとわりついたら、何が起きるか、わからんぞ」と激しく言った。 Aの母親は「友達同士のことでしょう」と言い返している。 その後、鹿川家にかかってきた電話が「鹿川裕史、殺してやる」と言ったきりで切れた。 グループで鹿川くんに対する筋違いな報復があったともされる。 雅弘さんは12月にも1度、A宅に抗議に行っている。 雅弘さんの抗議の効果か、12月中旬頃、グループ内で「もう(鹿川君へのいじめは)やめようや」という声が上がった。 自殺後、現像されたこの時の写真の鹿川君は笑ってはいないが明るい表情だった。 また自宅にはグループの1人から、「ふろはいれよ あたまあらえよ きくもんあらえよ また来週!」という内容の年賀状が届いた。 F教諭からのものもあり、「謹賀新年 61年 僕こそ今年よろしくお願いします。 それより、君自身が立派な人格を持った、自己主張のできる、けじめある青年に成長することです。 おたがいにガンバロ!」と書かれていた。 だが3学期になっても、鹿川君へのいじめはつづいた。 始業式の日、校舎階段の踊り場でグループの8人に暴行を受ける。 さらに鹿川君が血のついたカッターシャツを脱ぎカバンに隠して帰ろうとしたところ、校庭で3年生の1人に殴られる。 こうした悲惨ないじめから逃れるためか、鹿川君は10月あたりから、欠席が目立つようになる。 それまでは月に1日あるかないかの欠席が、10月に6日、12月に8日、1月に11日にのぼっている。 欠席の日は朝に家を出てから、病院の待合室などで時間をつぶしていたらしい。 登校した日も職員用トイレに隠れたり、保健室で休養することが多かった。 6日ぶりに登校した22日、体育の授業中、職員室前のプラタナスの木に登らされ、揺さぶられた。 さらに3年生2人に言われ、サザンオールスターズの歌を歌わされた。 鹿川君の父・雅弘さんはすでにいじめの事実を知っており、10月から11月にかけて担任にやめさせて欲しい」と相談を持ちかけ、学校でもいじめに関係した生徒や親に「人の心を傷つけるからやめてほしい」と注意した。 一方で教職員も3学期になって初めていじめの現場を目撃していた。 始業式の日の校庭での暴行を教頭が目撃している。 教頭は鹿川君と加害生徒に電話をかけたが、双方とも事実を否定したため放置した。 翌日から鹿川君が欠席するようになっても、教頭、担任は「ズル休みかな」という程度の認識だったという。 鹿川君が最後に登校した1月30日、5時間目が始まる午後1時過ぎに顔をだした。 だが授業中に廊下に出ていたため、2年生の教諭が教育相談室に連れていき、3、40分話をした。 その中で鹿川君はカバンを持たされているとか、買い物を言いつけられている、といった悩みを打ち明けた。 下校時間が近づくと、その教諭は担任を通して母親に連絡を取らせ、学校に迎えに来たと母親を交えて話した。 この時、担任のF教諭は鹿川君に転校をすすめている。 しかし鹿川君は転校にはまったく興味を示さなかったという。 その間、鹿川君を探していたグループ3人は彼のスニーカーを便器の中に捨てていた。 話が終わると鹿川君は一緒に下校した。 鹿川君、両親に「もういやだ」ともらす。 翌1月31日朝、鹿川くんは家を出たままその後行方がわからなくなった。 雅弘さんは池袋、新宿のゲームセンターや音響機器店を探しまわったが、とうとう見つからなかった。 翌日、職場近くの喫茶店で同僚と打ち合せをしている時、窓の外に赤いセーターを着た少年を見かけた。 走り去る少年の後ろ姿を見て、「あ、ヒロじゃないか」と言った。 しかし、鹿川君は池袋ではなく、もっと遠い場所にやって来ていた。 【死に場所】 鹿川君がたどりついたのは岩手県盛岡市だった。 父親の実家が岩手県にあり、かつて父親に連れられて来た事があった。 2月1日、鹿川君は盛岡市の中心部をさまよい歩いた後、国鉄盛岡駅の駅ビル「フェザン」の地下1階トイレの洋服掛けのフックにビニール紐をかけ、首を吊った。 家の人へ そして友達へ 突然姿を消して申し訳ありません (原因について)くわしい事については ・・・とか・・・とかにきけばわかると思う 俺だってまだ死にたくない。 だけどこのままじゃ「生きジゴク」になっちゃうよ。 ただ俺が死んだからって他のヤツが犠牲になったんじゃ、 いみないじゃないか。 だから、もう君達もバカな事をするのはやめてくれ、 最後のお願いだ。 昭和六十一年二月一日 鹿川裕史 鹿川君の遺書 「フェザン」は午後9時に閉店したが、トイレのドアが閉まったままなので不審に思った警備員がのぞき、発見した。 鹿川君の遺書はトイレの床に置いてあった。 制服のポケットには生徒手帳が入っており、それらから身元が判明し、その夜に雅弘さんに連絡が入った。 鹿川君が持っていた通学バッグの中には私服の着替え、折りたたみの傘、年賀状2枚、写真3枚が入っていた。 また家を出た前日に雅弘さんから貰った池袋サンシャイン60展望台の入場券3枚のうち1枚を持っていたことから、家を出た後サンシャインを訪れていた。 鹿川君が家出をするつもりだったが気が変わったのか、最初から死ぬために岩手に向ったのかはわかっていない。 岩手の鹿川君の叔父は「裕史は最後の2日間、生と死の間を揺れ動いていたと思う。 電車内でも心は彷徨を続けていただろう」と語った。 2月3日、鹿川君の遺体は岩手県石鳥谷町で火葬に付された。 妹が「お兄ちゃん、行っちゃやだあ」と、棺にとりすがった。 遺骨は5日夕方、東京の自宅に戻った。 【教師たち】 事件直後、富士見中に電話をかけた取材記者と校長の間で次のような問答が行われた。 「かも知れない。 それも考えられる。 が、 いじめといっても、仲間同士のプロレスごっこや、使い走りをさせられてる程度だ」 校長はこの時点でいじめの事実を聞いていた。 「プロレスごっこや使い走り程度」と言った校長は、実際にそういった報告を受けていたのだろう。 直接、生徒に関わることの少ない校長が詳細を知らないのも無理はない。 いじめを受けた子供というのは、本人から自分の受けたいじめを大袈裟に言うことは少ない。 ありのままのいじめの事実を話すと、自分の人間としての尊厳が揺らいでくるからだ。 屈辱的ないじめを受け続けた鹿川くんは1月30日に「カバンを持たされた」とか「買い物を言いつけられた」といった比較的、軽いいじめのことしか話さなかった。 担任のF教諭はどうだったか。 自殺直後、記者会見で次のように語っている。 「(仲間からの仕打ちに対する)屈辱感がやりきれなかったのではないでしょうか。 精神的にまいっていたし、どちらかと言えば気の弱い子でしたから」 「仲間の使い走りをさせられる、一緒に騒ぎを起こさせられる、ふざけた行為を強いられる、など精神的な圧迫が主だったようです」 「殴る蹴る、は少なかった」 「鹿川くんもにやにや、へらへらしていた」 葬式ごっこについて尋ねられると、「当時『ごっこ遊び』がはやっていたから、重視しなかった」とも話している。 だが一方で、2月5日、2Aの生徒全員に「色紙への署名はしなかったことにしてほしい」と口止めしていた。 F教諭は以前、いじめの主犯の1人に殴られて肋骨を痛めたことがあり、それから生徒たちになめられるようになった。 授業中に生徒が騒いでも、知らぬふりをしていたという。 【事件後】 鹿川君の死からまもない2月12日、2Aの隣りのクラス2年B組でひとつの事件が起こった。 B組の生徒L(当時14歳)が授業中に理科の教師から注意を受けたことを前の席のMに八つ当たりし、「お前は鹿川二世だ。 鹿川のように自殺しろ」、「オレと喧嘩しろ」などと、3、40回こづき、さらにその前の席のNを殴った。 さらにLはMを何度も殴り、Mは「先生助けて」と教師に助けを求めたが、教師は気にせず、黒板に字を書きつづけていた。 たまりかねたMは、Lに掴みかかり取っ組み合いとなった。 この時、教諭はようやくMを止めに入る。 Mは「先生あんまりだ。 Lを殺して、俺も自殺してやる。 刃物を買ってくる」と300m先の金物店に走っていった。 教諭はあわててMの後を追いかけ、金物店の手前でMと言い争うかたちとなった。 それを警官が見つけて事件発覚、Lは暴行の疑いで逮捕された。 そのうち1人は関西地方にある宗教団体の本山を訪ねている。 責められたのは加害者側だけではない、鹿川家には「どうして親が知らなかったのか」「あの家庭なら子どもが自殺して当然」「裕史が死んで良かった」というようないやがらせの電話が相次いだ。 【処分】 事件から2ヶ月、東京都教育委員会は、担任のF教諭が無届で学習塾アルバイトをしていた件も併せて問い論旨免職。 さらに校長と教頭、葬式ごっこに参加した4人の教師らに減給処分を下した。 「単なるいじめだと思っていた」という教師や校長の話に対して、行政側はそれを認めず、「いじめ」と断定したうえでの処分だった。 処分された教師のうち、校長と2教諭は数年後の定年を待たずに3月末で依願退職している。 4月、警視庁と所轄の警察署は、日頃から鹿川くんのいじめに加わっていた16人の生徒を傷害や暴力行為で書類送検した。 6月、鹿川君の両親は東京都と区、それに主立っていじめに加わっていたAとBの2人の両親を相手に、2200万円の損害賠償請求を起こした。 9月、東京地裁はAとBに保護観察処分を言い渡している。 1991年3月27日、東京地裁はいじめと自殺の因果関係、予見可能性を認めず、いじめの存在そのものも否定。 「これらはむしろ悪ふざけ、いたずら、偶発的なけんか、あるいは仲間内での暗黙の了解事項違反に対する筋をとおすための行動又はそれに近いものであったとみる方がより適切であって、そこには集団による継続的、執拗、陰湿かつ残酷ないじめという色彩はほとんどなかった」 証人として校長、教頭、担任、養護教員も出廷し、いじめの存在とその緊迫感を否定した。 AとBのいじめというよりも家族仲に問題があるとされ、遺書の「バカなことをするのはやめろ」というのは両親に対して、「他のやつ」は妹のこと、というような解釈できると主張した。 1994年5月20日、東京高裁は「(いじめは)通常人であれば屈辱感など心理的苦痛を感じないことはあり得ない」といじめの事実と被告の責任を認め、都と区、同級生2人の4者に1150万円の支払いを命じた。

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